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MASHで起こる倦怠感とは? 5つのメカニズムと最新対策

はじめに:見過ごされがちな重要症状

令和6年国民健康・栄養調査によると、日本人男性の34.0%、女性の20.2%が肥満に該当し、この数字は年々増加傾向にあります。肥満に伴って注目されているのが、MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)という肝臓の病気です。MASHは以前NASH(非アルコール性脂肪肝炎)と呼ばれていましたが、2023年に国際的な合意により名称が変更されました。

MASHの患者さんによく見られる症状の一つが「倦怠感」とされています。しかし、この症状は単なる疲れとして軽視されがちで、適切な治療を受けていない方が多いのが現状です。最新の研究では、MASHを含む慢性肝疾患の患者さんの45~85%が倦怠感を経験し、また、MASH患者さんでは「疲労感や全身の脱力感」などの原因から、仕事の生産性が約20%低下させることが明らかになっています。

肥満症の治療を真剣に考えている方にとって、MASHでみられる倦怠感を理解し、適切に対処することは、治療成功の鍵となる重要な要素なのです。

MASHとは何か:最新の理解

MASHとは、身体の代謝異常に関連して肝臓に脂肪が蓄積する脂肪肝の状態「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」のうち、肝臓に炎症や線維化(肝臓が硬くなること)が生じ進行した状態を指します。病名が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)から代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)に変更されたのは、この病気の根本原因が代謝異常にあることを明確にするためです。つまり、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧といった生活習慣病が複合的に関与して発症する疾患なのです。

日本人におけるMASLDの有病率は約25~30%と報告されています。そのうち10~20%がMASHに進行すると考えられています。特に肥満症患者さんでは、この割合がさらに高くなることが知られています。MASHは「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓の病気であるため、多くの場合、症状が現れにくく、健康診断で偶然発見されることが少なくありません。

しかし、症状がないからといって安心はできません。MASLDやMASHは放置すると肝硬変や肝がんに進行する可能性があり、実際にMASH患者さんでは約10年で10~20%が肝硬変に進展するという報告があります。さらに、最新の研究では、MASHによる倦怠感が予後不良と関連することも報告されています。

倦怠感が起こる5つのメカニズム

MASHやMASLDでは倦怠感がよく見られる症状の一つとされています。このような倦怠感は、複数の生理学的メカニズムが複雑に絡み合って生じます。最新の研究により、以下の5つの主要な要因が特定されています。

肝臓の炎症が脳の働きに影響

肝臓と脳は密接に関係しており、「肝脳軸」と呼ばれる仕組みでつながっています。MASHやMASLDになると、肝細胞の炎症により産生された炎症物質(サイトカイン)が増え、それが血液を通じて脳にも影響を及ぼすと考えられています。

その結果、意欲や活動性を司る脳の領域に影響を与え、セロトニンやドーパミンといった気分を調節する神経伝達物質のバランスを崩します。

これにより、「やる気が出ない」「頭が疲れる」といった疲労感につながる可能性があります。これは、脳の働きの変化によって起こる「中枢性疲労」と呼ばれる状態です。

肝臓の解毒機能の低下

健康な肝臓では、タンパク質の代謝で生じる有毒なアンモニアを無害な尿素に変換する「尿素サイクル」が機能しています。しかし、肝機能の低下により、この解毒機能が障害されます。その結果、血中アンモニア濃度が上昇し、脳に到達したアンモニアが神経細胞の機能を直接阻害します。

興味深いことに、明らかな肝硬変に至る前の段階でも、軽度の高アンモニア血症が生じることがわかっています。このような「潜在性高アンモニア血症」は、集中力の低下、記憶障害、精神的な疲労感として現れ、患者さんの日常生活に大きな影響を与えます。

ミトコンドリア機能の低下とエネルギー不足

ミトコンドリアは細胞の「発電所」として、生命活動に必要なエネルギーを産生しています。MASHやMASLDでは、肝細胞内に蓄積した脂肪や炎症により産生される活性酸素が、ミトコンドリアの構造と機能を損傷します。

ミトコンドリアの機能が落ちると、全身で作られるエネルギーが根本的に不足し、全身の疲労感や持久力の低下につながります。

筋肉量の減少と筋肉の質の低下

MASHやMASLDの患者さんでは、筋肉量の減少(サルコペニア)や、筋肉の中に脂肪が入り込む変化(筋脂肪浸潤)がみられることがあります。これは単なる運動不足だけではなく、慢性炎症や代謝異常の影響によって起こると考えられています。

筋肉は体を動かすだけでなく、体内の有害物質であるアンモニアを処理する働きにも関わっています。そのため筋肉量が減少すると、この働きが弱くなり、体内のアンモニアが増えやすくなる可能性があります。また、筋肉の質が低下すると、同じ活動でもより多くのエネルギーが必要となり、疲労感がつながることがあります。

睡眠障害と睡眠時無呼吸症候群

MASH患者さんや肥満症の患者さんでは睡眠時無呼吸症候群を合併する人が多いことが報告されています。睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸が何度も止まる病気で、肥満などによって気道が狭くなることが主な原因とされています。

睡眠中に呼吸が止まると、体は十分な酸素を取り込めなくなり、睡眠の質が低下します。その結果、日中の強い眠気や疲れやすさにつながることがあります。また、睡眠の質の低下は肝臓の炎症や脂肪の蓄積を悪化させる可能性もあり、疲労感をさらに強める要因になると考えられています。

令和6年の調査では、日本人の約20%が睡眠で十分な休養を取れていないことが示されており、MASH患者さんではこの割合がさらに高いと考えられます。

倦怠感がある場合の受診と検査の流れ

倦怠感は主観的な症状であり、その原因はさまざまです。肥満や生活習慣病を伴う方では、MASLDやMASHが関係している場合もありますが、倦怠感の背景には他にも、うつ病、睡眠障害、慢性炎症などさまざまな要因が関与することがあります。そのため、症状が続く場合には医療機関で原因を総合的に確認することが重要です。

また医療現場では、倦怠感や疲労の程度を評価するために、疲労評価スケール(FAS)や疲労重症度スケール(FSS)などの質問票が用いられることがあります。ただし、これらは「症状の強さ」を評価するためのものであり、その原因がMASHやMASLDによるものかどうかを直接診断するものではありません。

MASLDやMASHが関係しているかを確認するためには、まず肝機能検査や腹部エコー検査を行い、脂肪肝の有無を確認することが第一歩となります。また、肝臓の線維化リスクの評価には、血液検査から計算できるFIB-4 indexなどの指標が用いられることがあります。

これらの一次評価で異常が認められた場合には、専門医のもとでさらに詳しい検査が行われ、MASHの可能性を含めた評価が進められます。

仕事への影響:見過ごされがちな社会問題

MASHによる倦怠感は、患者さんの職業生活に深刻な影響を与えます。2025年に発表された最新の研究では、MASH患者さんの労働生産性が健常者と比較して約20%低下することが明らかになりました。この影響は、病気の進行度に関わらず、軽症のMASHでも認められることが特に注目されています。

労働への影響は、主に2つの形で現れます。一つは「アブセンティーイズム」と呼ばれる欠勤の増加で、MASH患者さんでは2~4%程度の増加が認められます。もう一つは「プレゼンティーイズム」で、これは出勤はしているものの生産性が低下している状態を指し、11~15%の低下が報告されています。

特に問題となるのは、疲労感、睡眠障害、全身脱力感という症状の組み合わせです。これらの症状は、集中力の低下、判断力の鈍化、作業効率の悪化を引き起こし、職場でのパフォーマンスに直接的な影響を与えます。また、記憶障害や認知機能の低下も報告されており、複雑な業務や創造性を要する仕事では、その影響がより顕著に現れます。

興味深いことに、新型コロナウイルス感染症の流行後に普及したハイブリッドワーク(在宅勤務と出社の組み合わせ)により、MASH患者さんの労働生産性への影響が軽減される傾向が観察されています。柔軟な働き方により、通勤による疲労の軽減や、体調に応じた作業環境の調整が可能になったことが要因と考えられています。

MASHによる倦怠感を改善するための治療の考え方

MASHによる倦怠感の治療は、まず原因となる脂肪肝や代謝異常を改善することが重要です。現時点では、MASHやMASLDそのものを直接治す特効薬は確立されておらず、生活習慣の改善や肥満症の治療が治療の中心となります。

特に肥満はMASLDやMASHの発症・進行と関連していることが知られており、体重管理、運動療法、食事療法などを組み合わせて代謝状態を改善することが重要とされています。

また、日本では、MASLDに加えて高血圧・脂質異常症・耐糖能異常などの代謝異常を伴い、BMIが27.5以上の場合には肥満症治療の対象となることがあります。肥満症治療では、食事療法や運動療法による体重管理を基本とし、必要に応じてウゴービやゼップバウンドなどの薬物療法が検討されます。

体重管理:治療の基盤

体重減少は、MASHの最も確実で効果的な治療法です。体重の5~10%程度の減量は、脂肪肝やMASHの改善につながるとされています。令和6年の調査では、適正体重を維持している日本人は60.7%にとどまっており、多くの方で体重管理の改善余地があります。

体重減少により、肝臓での炎症が軽減され、ミトコンドリア機能が改善し、インスリン抵抗性が改善されます。これらの変化により、倦怠感の根本的な改善が期待できます。ただし、急激な体重減少は肝機能を悪化させる可能性があるため、月1~2kg程度の緩やかな減量が推奨されます。

運動療法:多面的な効果

運動療法は、体重減少効果に加えて、倦怠感に対する直接的な改善効果があります。中等度の有酸素運動(週150分程度)により、ミトコンドリアの機能が向上し、筋肉での乳酸処理能力が改善されます。また、運動により細胞内のエネルギー代謝が改善し、酸化ストレスが軽減されることで、認知機能への良い影響が期待できます。さらに、運動はミトコンドリアの機能を高めることがわかっています。

令和6年の調査では、運動習慣のある日本人は34.6%にとどまっており、多くの方で運動不足が課題となっています。MASH患者さんでは、運動による疲労を恐れて活動を控える傾向がありますが、適切な強度の運動は倦怠感の改善に有効です。

筋力トレーニングも重要で、サルコペニアの予防・改善により、アンモニア代謝の改善と基礎代謝の向上が期待できます。運動強度は、最大心拍数の60~70%程度の中等度から開始し、徐々に強度を上げていくことが推奨されます。

食事療法:栄養バランスの改善

食事療法では、適切なカロリー制限と栄養バランスの改善が重要です。脂肪肝の治療には健康的な食事が推奨されており、塩分や糖分、およびアルコールを制限し、果物、野菜、全粒穀物を多く摂取することが大切です。

令和6年の調査では、日本人の野菜摂取量は平均258.7gで、目標の350gを大きく下回っています。また、食塩摂取量は平均9.6gと、目標の7g未満を大幅に上回っている状況です。

野菜摂取量の増加は、ビタミンなどの栄養素確保に加え、不足しがちな食物繊維の供給源となります。研究では、腸内環境の乱れがMASHの倦怠感に関与している可能性が指摘されており、野菜や全粒穀物を含む健康的な食事が推奨されています。

また、現在の食塩摂取量(9.6g)から目標(7g未満)への減塩も、血圧管理や肝臓への負担軽減のために欠かせません。

適切な体重管理のためには、バランスの取れた食事と適正なカロリー摂取が基本となります。体重減少は脂肪肝の改善に最も効果的ですが、筋肉を落とさないようタンパク質を適切に摂取し、健康的に減量することが重要とされます。

薬物療法

MASHに対する薬物療法として、米国では2024年にレスメチロム(商品名:Rezdiffra)、2025年8月にはセマグルチド(商品名:Wegovy)が承認されました。セマグルチドは日本では「ウゴービ(Wegovy)」として肥満症治療薬の適応で承認されていますが、MASHに対する適応は現時点ではありません。

そのため、日本では肥満症を合併するMASH患者さんに対して、肥満症治療としてウゴービやゼップバウンドを用い、体重減少を通じてMASHの改善を期待するという位置づけで治療が選択される場合があります。

睡眠の質改善

肥満症の患者さんでは、睡眠時無呼吸症候群を合併することが多いことが知られています。睡眠時無呼吸症候群の治療は、MASHによる倦怠感の改善に重要です。CPAP(持続陽圧呼吸療法:就寝中にマスクを装着し、空気を送り続けることで気道が塞がるのを防ぐ治療法)などの治療により、呼吸状態が改善すると、睡眠の質の改善や倦怠感の軽減につながる可能性があります。

日常生活での実践的管理

MASHによる倦怠感と上手に付き合うためには、日常生活での工夫が重要です。

症状の記録をつけることから始めましょう。倦怠感の程度を10段階で評価し、食事内容、運動量、睡眠時間、ストレスレベルと併せて記録します。これにより、症状の変動パターンや悪化要因を把握できます。

活動量の調整では、「ペーシング」という技法が有効です。これは、活動と休息のバランスを適切に保つ方法で、疲労感が強い日は無理をせず、調子の良い日も過度な活動を避けることがポイントです。一日の活動を細かく分割し、各活動の間に短い休息を挟むことで、疲労の蓄積を防げます。

職場での配慮も重要です。可能であれば、集中力を要する作業は午前中に行い、午後は比較的軽い業務に充てるなど、体調の変動に合わせたスケジュール調整を行います。また、定期的な小休憩を取り、適度な水分補給を心がけることで、集中力の維持が期待できます。

家族や職場の理解を得ることも大切です。MASHによる倦怠感は外見からはわかりにくい症状のため、周囲の理解を得るのが困難な場合があります。病気について正確な情報を共有し、必要に応じて医師からの診断書や意見書を活用することも考慮しましょう。

ストレス管理も欠かせません。慢性的なストレスは炎症を悪化させ、倦怠感を増強します。深呼吸、瞑想、軽いストレッチなどのリラクゼーション技法を日常的に取り入れることで、ストレスの軽減と症状の改善が期待できます。

医療機関との効果的な連携

MASHによる倦怠感の治療には、医療機関との継続的な連携が不可欠です。

受診のタイミングとしては、倦怠感が2週間以上持続する場合、日常生活や仕事に支障をきたす場合、他の症状(腹痛、黄疸、浮腫など)を伴う場合は、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。

医師とのコミュニケーションでは、症状の具体的な記録を持参することが重要です。倦怠感の程度、持続時間、悪化・改善要因、日常生活への影響などを客観的に伝えることで、適切な診断と治療につながります。

定期的な検査により、治療効果を客観的に評価することも大切です。肝機能検査、炎症マーカー、線維化マーカーの推移を確認し、必要に応じて治療方針の調整を行います。また、倦怠感の評価スケールを定期的に実施し、症状の変化を数値で把握することも有用です。

専門医との連携では、肝臓専門医、内分泌代謝専門医、睡眠専門医など、複数の専門分野の医師が協力して治療にあたることが理想的です。特に、合併症の管理や薬物療法の調整では、専門的な知識と経験が重要になります。

希望を持った展望

MASHでみられる倦怠感は、適切な理解と治療により改善可能な症状です。近年の研究により、その発症メカニズムが詳細に解明され、効果的な治療法も確立されつつあります。

治療効果は段階的に現れることが多く、体重減少や生活習慣の改善により、数か月から1年程度で症状の改善を実感できる方が多いとされています。また、新しい薬物療法の開発も進んでおり、今後さらに効果的な治療選択肢が増えることが期待されます。

重要なのは、倦怠感を「仕方のないもの」として諦めるのではなく、治療可能な医学的症状として認識し、積極的に対処することです。適切な治療により、仕事の生産性向上、生活の質の改善、そして将来的な肝硬変や肝がんの予防が期待できます。

肥満症の治療と併せてMASHによる倦怠感に取り組むことで、より包括的で効果的な健康管理が実現できるでしょう。医療従事者と相談しながら、適切な治療を続けていくことが大切です。

参考文献・参照サイト

監修

浦添総合病院

中田 円仁 先生

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