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MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)とは?肥満症との関係と改善策

この記事でわかること
  1. 肥満症とMASLDが密接に関わる理由
  2. MASLDと全身の病気リスクとの関係
  3. 肝線維化を防ぎMASLDを改善する生活習慣

はじめに

肥満症の治療を真剣に考えている方にとって、肝臓の健康は見過ごすことのできない重要な問題です。近年、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD:Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease)」という新しい名称に変更されました。この変更は単なる名前の変更ではなく、肥満症をはじめとする代謝異常が肝疾患の中心的な原因であることを明確に示すものです。

令和6年の国民健康・栄養調査によると、20歳以上の日本人男性の肥満者(BMI25以上)の割合は32.4%、女性では19.3%に達しており、MASLDのリスクが高い状態にあると考えられます。また、糖尿病が強く疑われる者についても、約1100万人と推計されています。海外の研究では、2型糖尿病患者の約70%がMASLDを合併していると報告されており、非常に密接に関連していることがわかっています。

MASLDとは何か:NAFLDから名称変更された理由と意味

従来のNAFLDからMASLDへの変更の意義

2023年、アメリカとヨーロッパの肝臓学会は、従来のNAFLDをMASLDに改名しました。この変更には重要な意味があります。

従来のNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)という名称は「何でないか」を示すだけで、病気の本質を表していませんでした。しかし、MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)という新しい名称は、代謝機能の異常が肝疾患の根本原因であることを明確に示しています。これは肥満症患者さんにとって特に重要な変更です。なぜなら、肥満症は代謝異常の代表的な疾患であり、MASLDの最も重要なリスクファクターだからです。

MASLDの診断基準

MASLDの診断には、肝臓への脂肪蓄積に加えて、以下の5つの代謝リスク因子のうち少なくとも1つが必要です:

  • アジア人BMI≧23(他の人種BMI≧25)または 腹囲 男性>94cm、女性>80cm
  • 血糖値が高い状態(糖尿病または境界型を含む)
  • 高血圧(130/85mmHg以上)
  • 中性脂肪が高い(150mg/dL以上)
  • HDLコレステロールが低い(男性40mg/dL未満、女性50mg/dL未満)

肥満症患者さんの多くは、BMIの基準がMASLDの診断要件を満たすことになります。これは、肥満症とMASLDが密接に関連していることを示しています。

肥満症患者さんにおけるMASLDの健康リスク

肝疾患の進行リスク

MASLDは単なる脂肪の蓄積にとどまりません。約20~30%の肥満症患者さんで炎症を伴う状態である代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)がみられ、さらに肝線維症、肝硬変、そして肝がんへと進展する可能性があります。特に重要なのは、脂肪の量そのものよりも「肝線維化の進行度」が将来の予後を大きく左右することが分かっている点です。肝臓のダメージがどの程度進んでいるかを把握することが、早期の対策につながります。

さらに、糖尿病はMASLDの進行を促進する重要なリスク因子とされています。血糖値が高い状態が続くと、肝臓の炎症や線維化が進みやすくなることが知られています。国民健康・栄養調査では、糖尿病が強く疑われる者の割合は男性で17.7%、女性で9.3%と報告されており、日本においても決して少なくない状況です。肥満症を有する方では、血糖管理を含めた包括的な対策が特に重要になります。

心血管疾患リスクの増大

MASLDを有する患者さんでは、MASLDを有さない人に比べて心血管疾患のリスクが約1.4倍に上昇するとの報告があります。実際、MASLDを有する非肝硬変患者さんの主要な死因は心血管疾患です。

令和6年の調査では、収縮期血圧の平均値が男性で129.8mmHg、女性で123.8mmHgとなっており、多くの日本人が高血圧の境界域にあることが分かります。MASLDを有する肥満症患者さんでは、この心血管リスクがさらに高まるため、包括的な管理が必要です。

がんリスクの増加

MASLDは肝がんだけでなく、乳がん、泌尿器系がん、肺がん、消化器系がんのリスク上昇とも関連していることが、300以上の研究をまとめた大規模解析で示唆されています。これは、代謝異常が全身に及ぼす影響の深刻さを物語っています。

診断と検査

MASLDが疑われる場合、まず行われるのは血液検査と腹部超音波検査です。血液検査ではAST・ALTなどの肝機能に加え、血糖値やHbA1c、脂質(中性脂肪・HDLコレステロール)を確認し、肝臓の炎症や代謝異常の状態を調べます。これらの数値は、肥満症や糖尿病との関連を評価するうえでも重要です。

超音波検査では、肝臓に脂肪がたまっているかどうかを確認します。体への負担が少なく、多くの医療機関で実施できる基本的な検査です。

さらに近年は、血液データから肝線維化のリスクを推定する指標(FIB-4など)も活用されています。脂肪の有無だけでなく、「肝臓が硬くなっていないか」を確認することが、将来の肝硬変や肝がんを防ぐために重要です。

MASLDは慢性的に進行する可能性があるため、血液検査を数か月ごと、超音波検査を年1回程度行いながら経過をみていきます。体重や血糖が改善した後も、定期的なフォローを続けることが大切です。

治療の基本方針:エビデンスに基づくアプローチ

体重減少の重要性

MASLDの治療において、体重減少は最も重要で効果的な介入です。7%の体重減少でMASHの改善が期待でき、10%の減量では肝線維化の改善も報告されています。

国民健康・栄養調査によると、適正体重を維持している者の割合は60.7%にとどまっており、多くの日本人が体重管理の課題を抱えています。肥満症患者さんでは、段階的で持続可能な体重減少計画が必要です。

食事療法の具体的アプローチ

食事療法のポイント

過剰な糖質や脂質の摂取を控え、バランスの取れた食事を心がけます。特に清涼飲料水などの糖分の多い飲み物は控えましょう。

食塩の摂取量

日本人の一日食塩摂取量は男性で10.5g、女性で8.9gと、目標値である7g未満を上回っています。食塩の過剰摂取は高血圧や心血管疾患のリスクを高めるため、MASLDを有する肥満症患者さんでは特に注意が必要です。

栄養バランスの改善

主食・主菜・副菜を組み合わせた食事がほぼ毎日できている人は52.8%にとどまっています。バランスの良い食事は体重管理や血糖コントロールに役立ち、MASLDの改善にもつながります。

野菜摂取量の増加

日本人の一日平均野菜摂取量は258.7gで、目標の350gに達していません。野菜に含まれる食物繊維や抗酸化成分は、代謝改善に寄与すると考えられています。野菜や食物繊維を十分に摂ることで満腹感が得られ、血糖の急上昇を抑える効果も期待されます。

果物摂取の適正化

日本人の一日平均果物摂取量は78.1gで、目標の200gを下回っています。適量の果物はビタミンやミネラルの補給に役立ちますが、過剰な糖分摂取にならないよう食べ過ぎには注意が必要です。

運動療法のポイント

MASLDの改善には、週150分以上の中強度の有酸素運動が推奨されています。軽く汗をかく程度のウォーキングや自転車などが目安です。さらに、スクワットなどの筋力トレーニングを組み合わせることで、代謝の改善が期待できます。

骨格筋は食後の血糖を多く取り込む臓器であり、筋肉量を維持・増加させることは血糖管理の改善にもつながります。膝や腰に不安がある場合は、上半身の体操など無理のない方法から始めましょう。

薬物療法の現状と限界

現在、日本ではMASLDそのものに対して承認された特異的な治療薬は限られています。しかし、糖尿病治療薬の一部やビタミンEなどが研究されており、将来的には治療の選択肢が広がる可能性があります。

重要なのは、薬物療法は生活習慣の改善を補完するものであり、決して代替するものではないということです。体重管理や運動療法が治療の基本である点は変わりません。

長期的な管理と予後改善

継続的なモニタリング

MASLDは慢性的に経過する疾患であり、長期的な管理が必要です。定期的な血液検査や必要に応じた画像検査により、病気の進行や改善の状況を確認していきます。特に肝線維化の進行を早期に把握することが、将来の肝硬変や肝がんの予防につながります。

生活習慣の持続的改善

MASLDの改善には、短期間の対策ではなく、無理なく続けられる生活習慣の見直しが重要です。食事や運動に加え、十分な睡眠やストレス管理も代謝改善に関わる要素とされています。小さな改善を積み重ね、継続することが予後の改善につながります。

まとめ

MASLDは、肥満症患者さんに比較的多くみられる重要な合併症です。しかし、早い段階で気づき、適切に対応することで、将来のリスクを減らすことが期待できます。

体重減少、バランスの良い食事、適度な運動、そして定期的な医学的管理は、MASLD対策の基本です。こうした取り組みによって、病気の進行を抑えることが可能と考えられています。

肥満症の治療を真剣に考えている方は、MASLDについても正しい知識を持ち、包括的な視点で健康管理に取り組むことが大切です。早期に対策を始めることで、肝硬変や肝がんへの進行リスク、さらには心血管疾患のリスクの低減も期待できます。

かかりつけ医と相談しながら、無理のない生活習慣の改善を一歩ずつ継続していくことが、将来の健康を守ることにつながります。

参考資料

注:本記事は情報提供を目的としており、医学的助言に代わるものではありません。治療に関する決定は必ず医療機関で医師と相談の上で行ってください。医薬品の使用に際しては、最新の添付文書をご確認ください。

監修

さい内科・消化器内科クリニック

崔 静姫 先生

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