健康診断で「脂肪肝」を指摘されたことはありませんか? 「お酒は飲まないから大丈夫」「少し太っているだけ」と軽く考えていると、取り返しのつかない事態になる可能性があります。
近年、脂肪肝の新しい概念として「MASH(マッシュ)」という言葉が注目されています。これは、肥満や糖尿病などの代謝異常が深く関わっており、放置すると肝硬変や肝がんへ進行するリスクがある病気です。
この記事では、MASHの具体的な症状、MASLD(マッスルディー/マッスルド)との違い、そしてなぜ肥満症の治療が肝臓を守るために重要なのかを、最新の医学的知見やガイドラインに基づいて解説します。
MASH(マッシュ)とは? 新しい病名の定義と背景
これまで「お酒をほとんど飲まない人の脂肪肝」はNASH(ナッシュ、非アルコール性脂肪肝炎:Non-Alcoholic Steatohepatitis)と呼ばれてきました。しかし近年、この病気の本質が「お酒」ではなく、肥満や糖尿病などの代謝異常にあることが明らかになり、2023年以降、国際的に病名が見直されています。
現在は、以下のような新しい分類が使われています。
MASLDとMASHの違い
日本肝臓学会などの関連学会は、脂肪肝の新しい分類について公式サイト上で以下のように説明しています。
脂肪性肝疾患を steatotic liver disease(SLD)と総称し,従来の NAFLD,NASH はメタボリック症候群の基準の一部を満たす場合に限定して,metabolic dysfunction associated steatotic liver disease(MASLD),metabolic dysfunction associated steatohepatitis(MASH)と診断することになりました。
引用:日本肝臓学会「NAFLD,NASHの病名変更」(2023年9月29日)
【かみ砕いて解説すると】
- MASLD:以前はNAFLDと呼ばれていました。単に「脂肪が肝臓に溜まっている」だけでなく、「肥満や糖尿病などの代謝トラブルが原因で起きている脂肪肝」という広い意味の病名です。お酒を飲む・飲まないにかかわらず、メタボリックな要因がある脂肪肝はこれに含まれます。
- MASH:以前はNASHと呼ばれていました。MASLDの中でも特にタチが悪い状態です。単に脂肪があるだけでなく、「肝臓が火事(炎症)を起こしており、徐々に傷跡(線維化)が残って硬くなっている状態」です。これを放置すると、肝硬変や肝がんへ進んでしまいます。
※MASLDおよびMASHの定義は、米国肝臓病学会(AASLD)などの国際的な専門学会が示した分類に基づいて解説しています。
つまり、肥満症の人で脂肪肝を指摘された場合、すでにMASLDの状態であり、その中の一部は、気づかないうちにMASHへ進行している可能性があるということです。
気づきにくいMASHの症状:初期症状と進行した場合のサイン
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれます。MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)が怖い理由の一つは、かなり進行するまで自覚症状がほとんどないことです。そのため、多くの人は「症状がない=問題ない」と思い込み、治療のタイミングを逃してしまいます。
初期の段階:ほとんど無症状
MASH(旧称NASH)やMASLDは、初期の段階では自覚症状がほとんどないことが多い病気です。そのため、多くの人は、健康診断の血液検査で肝機能(ALT/AST/γ-GTP)の異常を指摘されて初めて問題に気づきます。
仮に症状があったとしても、「なんとなく体がだるい」「疲れが取れにくい」「右上腹部に違和感がある」といった程度で、MASHに特有のものではありません。
肝臓は痛みを感じる神経が少ないため、炎症が起きていても痛みとして自覚されにくい臓器です。そのため、症状がないからといって、肝臓の中で炎症が起きていないとは限らないのが、この病気の怖さです。
進行すると現れる「肝硬変」のサイン
MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)を放置すると、肝臓の炎症が長く続き、線維化が進行して肝硬変に至ることがあります。
肝硬変の段階になると、それまでほとんど症状がなかった人でも、はっきりとした体調の変化が表れ始めます。
具体的には、
- 黄疸(おうだん): 白目や肌が黄色くなります。
- 腹水(ふくすい): おなかに水が溜まり、強い圧迫感で苦しくなります。
- むくみ: 足などが腫れやすくなります。
- 意識障害: 肝臓で毒素(アンモニアなど)を解毒できなくなり、それが脳に回って、わけのわからないことを言ったり、昏睡状態になったりします。
このほか、食道や胃の血管がこぶ状にふくらみ(食道・胃静脈瘤)、それが破れると大量の吐血を起こすなど、命に関わる状態になることもあります。
このような段階に進んでしまうと、日常生活に大きな支障が出るだけでなく、入院や専門的な治療が必要になります。
肥満症のある人は、こうした深刻な状態を防ぐためにも、症状がないうちから治療を始めることが重要です。
なぜ肥満がMASHを引き起こすのか? 原因とメカニズム
「なぜ太ると肝臓が悪くなるのか?」 それは、体に余った脂肪が行き場を失い、肝臓に集中しやすくなるからです。
インスリン抵抗性と脂肪毒性
肥満、特に内臓脂肪が増えると、インスリンが効きにくくなり、脂肪組織にたまっていた脂肪が血液中に流れ出します。
その脂肪は肝臓に運ばれ、本来の処理能力を超えて中性脂肪としてたまり、脂肪肝になります。さらに、肝臓にたまりすぎた脂肪は、炎症や酸化ストレスを引き起こし、肝臓の細胞そのものを傷つけます。これが続くと、肝臓に炎症が起こり、硬くなる変化(線維化)が進み、MASHへと進行することがあります。
つまり、MASHは肝臓だけの病気ではなく、肥満やインスリン抵抗性といった全身の代謝異常が深く関わる病気です。
そのため、治療では肝臓だけを見るのではなく、体重管理を含めた全身の治療が欠かせません。
MASHを早期発見するための検査方法
血液検査の数値(ALTやAST)が高いことは一つの目安ですが、それだけではMASHかどうかの確定診断はできません。数値が正常範囲内でも、MASHが隠れていることがあります。
線維化(肝臓の硬さ)を調べる重要性
NAFLD/NASH症例の生命予後には肝臓の線維化が重要である. 線維化進行例を拾い上げて肝疾患関連イベントを経過観察することが消化器科の観点からは重要となる.
引用:日本消化器病学会「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020」CQ3-1 より
【かみ砕いて解説すると】
血液検査の数値だけでなく、肝臓の線維化がどの程度進んでいるかは、将来の経過を考えるうえで非常に重要なポイントです。
線維化が進んでいる人ほど、肝臓の病気に関連したトラブルが起こりやすいため、進行している可能性のある人を早めに見つけ、継続的に経過をみていくことが大切だとされています。
MASHの治療法:肥満症治療が最大のカギ
現時点(2026年1月現在)で、日本国内においてMASHそのものを完治させる承認薬(特効薬)はまだ一般的ではありません(※研究・開発は進んでいます)。 そのため、治療の基本は世界共通で、「生活習慣の改善による体重減少」です。肥満症の治療に取り組むことは、肝臓を守るための最も確実な近道といえます。
体重減少が肝臓を守る理由
MASHでは、体重を減らすことで
- 肝臓にたまった脂肪が減る
- 炎症が落ち着く
- 肝臓が硬くなる変化(線維化)の進行が抑えられる
ことが、世界中の多くの研究で一貫して示されています。
一般に、体重の数%以上の減量でも肝臓の脂肪や炎症が改善し、さらにより大きな減量が達成できた場合には、肝臓の状態がより良くなる可能性があると考えられています。
重要なのは、「急激に痩せること」ではなく、無理なく続けられる形で体重を減らし、維持することです。
具体的な食事・運動療法
食事のポイント
MASHの治療では、極端な食事制限よりも、日々の食習慣の見直しが重視されます。
- 摂取カロリーを適正に保つ:食べ過ぎを避け、体重が少しずつ減るペースを目指します。
- 糖質や脂質の「質」に注意する:清涼飲料水やお菓子に多い糖分、揚げ物や加工食品に多い脂質は、肝臓への脂肪蓄積を助長します。
- タンパク質と食物繊維をしっかり取る:筋肉量の維持や代謝の改善につながります。
運動のポイント
運動は、体重減少だけでなく、インスリン抵抗性の改善という点でも重要です。
- 有酸素運動:ウォーキングなど、息が弾む程度の運動を定期的に行うことで、肝臓の脂肪が減りやすくなります。
- 筋力トレーニング:筋肉は糖を消費する重要な臓器です。筋肉量を増やすことで、脂肪がたまりにくい体になります。
薬物療法について
MASHに直接効く薬はまだ限られていますが、糖尿病や肥満症、高脂血症などを治療する薬が、結果として肝臓の状態を改善することは、世界的に広く知られています。
特に、体重を減らす作用のある薬や、血糖・脂質を改善する薬を使うことで、肝臓への負担が軽くなり、MASHの進行が抑えられるケースがあります。
ただし、
- どの薬が適しているか
- そもそも薬が必要か
は、合併症や肝臓の状態によって異なります。必ず医師と相談し、自己判断で治療を行わないことが大切です。
まとめ:MASHの症状が気になっている方へ~医師からのメッセージ
MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)は、初期には自覚症状がほとんどないことが多い病気です。そのため、「特に症状がないから大丈夫」「少し脂肪肝と言われただけ」と、受診や治療のタイミングを逃してしまう方も少なくありません。
しかし、MASHは静かに進行し、気づかないうちに肝臓が硬くなっていく(線維化)ことがあります。症状が出てからでは、すでに肝硬変に近い状態になっているケースもあります。
一方で、早い段階で見つけ、適切に対応すれば、肝臓の状態が改善する可能性がある病気でもあります。特に重要なのは、血液検査の数値だけで安心せず、肝臓の線維化の程度を含めて評価すること、そして体重管理を中心とした治療に取り組むことです。
「疲れやすい」「なんとなくだるい」
「脂肪肝と言われたことがある」
「肥満や糖尿病が気になっている」
こうした点に心当たりがある方は、それだけで受診を考える十分な理由があります。受診することで、「問題ない」と確認できることもありますし、もし治療が必要な状態であれば、今から対策を始めることが将来の大きな差につながります。
MASHの症状が気になってこの記事を読んでくださった「今」は、ご自身の肝臓と向き合う、とても大切なタイミングです。ぜひ一度、消化器内科や肝臓専門医、または肥満外来で相談し、ご自身の肝臓の状態を正しく知ることから始めてください。
その一歩が、5年後、10年後のあなたの健康な肝臓を守ることにつながります。
参考文献・情報源
- 日本肝臓学会「NAFLD,NASHの病名変更」
- American Association for the Study of Liver Diseases(AASLD)「New MASLD Nomenclature」
- U.S. National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases (NIDDK)「Symptoms & Causes of NAFLD & NASH」「Treatment for NAFLD & NASH」
- MedlinePlus(U.S. National Library of Medicine, NIH)「Fatty Liver Disease」
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監修
内田 賢一 先生