高度肥満症は、単に本人の意志や努力だけで解決できるものではありません。遺伝的・生物学的な要因や生活環境、心理社会的な要因などが複雑に関わる疾患であり、医療機関での適切な診療と継続的な支援が重要です。本記事では、高度肥満症の定義や診断基準、医療機関で行われる治療法、保険適用の条件、受診先の選び方について詳しく解説します。
- 高度肥満症の定義と診断基準
- 原因や健康リスクを知る
- 治療法や受診先の選び方
高度肥満症とは?肥満・肥満症との違いと診断基準
「肥満」「肥満症」「高度肥満症」という言葉は日常的にはよく似た意味で使われがちですが、医学的には明確に区別されています。まずはそれぞれの定義の違いと、医療現場で用いられる診断基準について整理しましょう。

肥満と肥満症・高度肥満と高度肥満症の違い
医学において、「肥満」とは脂肪組織が過剰に蓄積した状態を指します。日本では、体格指数であるBMI(Body Mass Index)が25以上の場合に肥満と判定されます。一方、「肥満症」は、BMIが25以上であり、かつ肥満に起因または関連する健康障害を伴っているか、内臓脂肪の過剰な蓄積が確認され、医学的な減量治療が必要とされる状態(疾患)を指します。
「高度肥満」は、内分泌疾患や薬剤などによる二次性肥満を除外したうえで、BMIが35以上に該当する状態です。BMIが35以上で、肥満に関連して減量が必要となる健康障害を伴う場合、または内臓脂肪が過剰に蓄積している場合に「高度肥満症」と診断されます。
BMIが25以上35未満の肥満症と比べ、高度肥満症では、肥満に関連する健康障害が重症化しやすくなります。食事療法や運動療法だけでは十分な減量が難しい場合もあり、包括的な治療が重要です。
高度肥満症の診断基準
高度肥満症は、BMIの数値、健康障害や内臓脂肪の蓄積の有無に基づいて診断されます。
BMIは「体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)」の計算式で算出され、日本肥満学会の基準ではBMI 35以上40未満が「肥満3度」、BMI 40以上が「肥満4度」とされ、これらが「高度肥満」に分類されます。
診断では、BMIの数値に加えて、肥満に関連する11種類の健康障害のうち1つ以上があるかを確認します。健康障害がない場合でも、ウエスト周囲長などから内臓脂肪の蓄積が疑われ、腹部CT検査で内臓脂肪型肥満が確認された場合には、肥満症または高度肥満症と診断されます。
診断基準に含まれる健康障害は以下の11種類です。
- 耐糖能障害(2型糖尿病や耐糖能異常など)
- 脂質異常症
- 高血圧
- 高尿酸血症・痛風
- 冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症など)
- 脳梗塞・一過性脳虚血発作
- 非アルコール性脂肪性肝疾患
- 月経異常・女性不妊
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
- 運動器疾患(変形性膝関節症、変形性股関節症、変形性脊椎症など)
- 肥満関連腎臓病
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高度肥満症の原因と健康リスク
高度肥満症に至る背景には、単一の原因ではなく、多様な要因が複合的に関わっています。体重の増加に伴って全身のさまざまな臓器への負担が大きくなり、複数の健康障害を合併する可能性があります。
主な原因(食事・生活習慣・遺伝・環境要因)
体重は、食事から摂取するエネルギーと、基礎代謝や身体活動などで消費するエネルギーの影響を受けます。ただし、高度肥満症に至る背景は単純ではありません。
食事内容や身体活動だけでなく、遺伝的な体質、食欲やエネルギー消費を調節する体の仕組み、睡眠、ストレス、使用している薬、就労環境や社会経済的な状況など、多くの要因が関わります。そのため、体重の管理を本人の意志や努力だけの問題として捉えることはできません。
なお、甲状腺や副腎などの病気、遺伝性疾患、食欲や代謝に影響する薬剤などが体重増加に関わっている場合もあります。医療機関では、こうした原因がないかも含めて評価します。
肥満の原因について詳しく知りたい方は、「肥満症の原因とは?生活習慣だけではない体の仕組みを解説」の記事をご覧ください。
糖尿病や高血圧などの合併症・健康リスク
内臓脂肪が過剰に蓄積すると、脂肪組織から分泌される生理活性物質のバランスが変化し、慢性的な炎症やインスリンの効きにくさなどを通じて、糖代謝や脂質代謝、血圧に影響を及ぼします。代表的な健康障害として、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などがあります。
さらに、体重による物理的な負荷は骨や関節に負担をかけ、変形性膝関節症や腰痛を引き起こして日常の歩行や運動が困難になることもあります。また、閉塞性睡眠時無呼吸症候群や肥満低換気症候群を合併すると、日中の強い眠気や疲労感に加え、低酸素血症や心血管系への負担が生じる可能性があります。
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高度肥満症の治療法
治療の基本は、食事療法、運動療法、行動療法を組み合わせた生活習慣への介入です。患者さんの状態やこれまでの治療経過に応じて、薬物療法や減量・代謝改善手術を組み合わせることがあります。
高度肥満症では、まず3~6か月で現在の体重の5~10%を減らすことが、初期の目標とされます。ただし、目標は健康障害の状態や治療への反応に応じて調整されます。
食事療法・運動療法によるアプローチ

医療機関における食事療法では、体重や合併している病気、普段の食生活、身体活動量などを確認し、必要なエネルギー量や栄養バランスを検討します。必要に応じて管理栄養士による栄養指導を受けながら、極端な絶食や特定の食品だけを食べる方法ではなく、長く続けられる食習慣を身につけることを目指します。
運動療法は、消費エネルギーの増加や筋肉量の維持、インスリン感受性の改善に寄与します。ただし、高度肥満症の患者さんの場合、急激な運動は膝や腰などの関節に負担をかける可能性があります。このため、関節や心肺機能の状態を確認し、歩行、水中運動、椅子に座って行う運動などから、無理なく続けられる方法を個別に選びます。
食事療法・運動療法の具体的な治療内容については「肥満の食事療法とは?無理なく痩せてリバウンドを防ぐ正しい進め方」「【医師監修】肥満症の運動療法と安全な3か月計画」でご紹介しています。
薬物療法・外科的治療によるアプローチ
食事療法や運動療法など、治療の基本となる生活習慣への介入を行っても十分な効果が得られない場合には、患者さんの状態に応じて、薬物療法や外科的治療(減量・代謝改善手術)が検討されます。
薬物療法には、食欲抑制薬のマジンドール(製品名:サノレックス)、GLP-1受容体作動薬のセマグルチド(製品名:ウゴービ)、GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(製品名:ゼップバウンド)などがあります。これらの薬は、それぞれ異なる仕組みで食欲に働きかけ、食事量の減少を助けます。
いずれも食事療法や運動療法と組み合わせて使用します。効果や副作用、投与できる条件は薬によって異なるため、医師が患者さんの状態に応じて選択します。なお、薬によって対象となる患者さんや使用期間は異なります。例えば、マジンドールは高度肥満症を対象とする薬で、投与期間は原則として3か月以内です。
外科的治療としては、「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」などが挙げられます。これは胃の大部分を切除して容量を小さくする手術で、1回に食べられる量が少なくなるほか、食欲や代謝に関わる消化管ホルモンにも変化が生じます。減量・代謝改善手術では、内科的治療より大きな体重減少や、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、運動器疾患などの改善が得られる場合があります。一方で、出血や縫合不全などの術後合併症、栄養不足などのリスクがあり、手術後も食事管理や定期的な検査を長期にわたって続ける必要があります。
薬物療法や外科的治療を保険診療で受けるためには、治療法ごとに定められた患者要件や施設要件などを満たす必要があります。詳細は関連記事をご参照ください。
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高度肥満症の受診先と治療費
高度肥満症の診療を受けたいと考えた際、「どの診療科に行けばよいのか」「費用はどれくらいかかるのか」といった疑問や不安を感じる方は少なくありません。安心して適切な医療を受けるための受診先や費用の目安について解説します。
受診先の選び方
受診先としては、「肥満症外来」「肥満外来」や、糖尿病・代謝・内分泌を専門とする診療科などが候補になります。医療機関によって対応できる治療が異なるため、受診前に診療内容を確認するとよいでしょう。近くに専門外来がない場合は、かかりつけ医に相談し、専門医療機関への紹介状を作成してもらう方法もあります。
受診先を選ぶ際は、肥満症の診断や合併症の評価を行っているか、食事・運動療法を含めて継続的に支援する体制があるか、などを考慮することが大切です。薬物療法を希望する場合は、治療の対象となる条件や副作用について十分な説明を受けられるかも確認しましょう。
費用の目安と保険適用の条件
公的医療保険が適用される診療では、年齢や所得に応じて、医療費の1~3割を窓口で負担します。肥満症の診療に必要と医師が判断した診察や検査、一定の要件を満たす栄養指導などは、保険診療の対象となる場合があります。実際の費用は、検査内容、治療法、通院頻度などによって異なります。
保険診療で治療を受けるには、治療法ごとに定められた条件を満たす必要があります。
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まとめ:高度肥満症は治療が必要な病気
高度肥満症は、単に体重が多い状態ではなく、医学的な減量治療が必要となる疾患です。本人の意志や努力だけで解決しようとすると、心身の負担が大きくなることがあります。
治療では、体重を減らすことだけを目的とせず、肥満に関連する健康障害を改善し、生活の質を高めることを目指します。食事療法、運動療法、行動療法を基本に、必要に応じて薬物療法や減量・代謝改善手術を組み合わせます。
体重に伴う健康上の問題がある場合や、自分だけでの減量が難しいと感じている場合は、かかりつけ医や、肥満症を診療している医療機関に相談しましょう。
参考資料
- 日本肥満学会:「肥満症診療ガイドライン2022」
- 日本肥満症治療学会:「減量・代謝改善手術のための包括的な肥満症治療ガイドライン2024」
- 厚生労働省:「最適使用推進ガイドライン セマグルチド(遺伝子組換え)(販売名:ウゴービ皮下注)~肥満症~」「最適使用推進ガイドライン チルゼパチド(販売名:ゼップバウンド皮下注)~肥満症~」
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA):「マジンドール」「セマグルチド(遺伝子組換え)」「チルゼパチド」
監修
伴 良行 先生