「もう少し痩せてから受診しよう」と思っていませんか?
肥満症外来を受診される患者さんのお話を聞いていると、ときどき「病院に行く前に、もう少し自分で痩せておこうと思っていました」と言われることがあります。なかには、「体重が増えていることで叱られてしまうのではないか?」「生活習慣を注意されるのではないか?」「何もできていない状態で受診するのは恥ずかしい…」などと感じてしまい、受診をためらっていたという方もいらっしゃいます。
しかし、肥満症外来は「頑張って痩せた結果を見せる場所」ではありませんし、「痩せられなかったことを叱られる場所」でもないのです。なぜ体重が増えているのか、体にどのような問題が起こっているのかを一緒に整理し、その方に合った方法を考えるための場所なのです。
ですから、受診する前に無理に体重を落としておく必要はありません。むしろ、「なかなか痩せられない」「何から始めればいいのか分からない…」という段階こそ、医療機関で相談していただく良いタイミングだと思います。
「もう少し自力で」が、かえって遠回りになることも
体重を減らそうと思ったとき、多くの方がまず食事を減らしたり、運動を始めたりします。それ自体は決して悪いことではありません。
ただ、短期間で体重を落とそうとして極端に食事を減らすと、脂肪だけでなく筋肉まで減ってしまうことがあります。また、無理な食事制限は長く続けることが難しく、いったん体重が減っても、その後リバウンドしてしまうことも少なくありません。また、「痩せなくてはいけない」と思いながら減量とリバウンドを繰り返すうちに、「どうせ自分にはできない」と自信を失ってしまう方もいらっしゃいます。
もう一つ大切なのは、体重だけを見ていると、すでに起こっている健康上の問題を見逃してしまう可能性があることです。肥満に伴って、高血圧、糖尿病、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな病気が隠れていることがあります。こうした病気の中には、自覚症状がほとんどないまま進行するものもあります。
「もう少し痩せてから検査を受けよう」と考えるより、まず現在の体の状態を確認することが大切です。
肥満症外来では何をするのでしょうか
肥満症外来を受診したからといって、すぐに厳しい食事制限を指示されたり、薬による治療が始まったりするわけではありません。まず初めに行われるのは、現在の状態を知るための検査です。体重やBMIだけではなく、血液検査、血圧、体組成などを確認し、必要に応じて肥満に関連する健康障害がないかを調べます。そして、「なぜ体重が増えているのか」という背景も一緒に考えていきます。
食事の量や内容だけでなく、食べる時間帯、間食、飲酒、睡眠、運動習慣、仕事内容、ストレスなど、体重に影響する要素は人によって大きく異なります。また、内分泌疾患など、医学的な病気が体重増加の背景にないかを確認することもあります。
重要なのは、「食べ過ぎだから…」「運動不足だから」と肥満の理由を一つの原因だけで考えないようにすることです。患者さんごとに生活環境も体質も異なります。医師や管理栄養士などと一緒に、自分の場合にはどこを変えることが効果的なのかを探していきます。
早く受診することには意味があります
肥満症の治療で大切なのは、単に体重計の数字を減らすことではありません。体重を適切に減らすことによって、血糖や血圧、脂質、脂肪肝などを改善し、健康障害リスクを減らしていくことが本来の目的です。そのためには、できるだけ筋肉を維持しながら体脂肪を減らすことや、減量後の体重を長く維持していくことも大切です。
医療機関では、それぞれの方の現在の健康状態を確認したうえで、食事療法や運動療法など医学的な根拠に基づいた方法を一緒に考えることができます。また、一定の条件を満たす肥満症の方では、生活習慣の改善だけでなく、肥満症治療薬などを含めた治療を検討することもあります。ただし、お薬だけで肥満症を治療するわけではありません。食事、身体活動、睡眠などを含めた生活全体を見直しながら、その方に必要な治療を組み合わせていくことが重要です。
そして何より、「一人で何とかしなければならない」と抱え込まなくてよいことが、医療機関を利用する大きな意味の一つではないかと思います。
初めて肥満症外来を受診するときのポイント
初めて受診される際には、特別な準備は必要ありません。もし、健康診断の結果や過去の血液検査結果、お薬手帳などが手元にあれば、持参していただくと、これまでの経過を把握するのに役立ちます。また、「いつごろから体重が増えたのか」「これまでどのようなダイエットをしたのか」「一番困っていることは何か」などを教えていただけると、治療方針を考える参考になります。
とはいえ、あらかじめきれいに整理しておく必要はありません。「何から話したらよいかわからない」という状態でも大丈夫です。診察の中で一緒に整理していきます。
肥満症の治療は、医師が一方的に目標を決めるものではありません。長く治療を続けるために、「これなら続けられそう」と思える方法を一緒に探していくことが大切です。
「痩せてから」ではなく、「困ったとき」が受診のタイミング
肥満症は、単に体重が多いというだけの問題ではありません。肥満によって健康への影響が生じている場合には、医学的な治療が必要な病気です。
「自分の努力が足りないから」と考えて、受診を先延ばしにする必要はありません。一度もダイエットをしたことがなくても構いません。何度もダイエットに挑戦してうまくいかなかった方でも構いません。そして、受診する前に体重を減らしておく必要もありません。「体重が気になる」「健康診断で異常を指摘された」「何度やっても減量が続かない」。そう感じたときが、相談していただく一つのタイミングです。
肥満症の治療は、短期間で何kg減らすかだけを競うものではありません。これから先も健康に生活していくために、自分の体について知り、自分に合った方法を見つけていく。そのお手伝いをするのが肥満症外来だと考えています。
「もう少し痩せてから」ではなく、まずは今の状態のままで相談してみてください。そこから一緒に始めていきましょう。
プロフィール
新谷 哲司 先生
みかんの花クリニック糖尿病・内分泌・代謝内科 院長。
2000年愛媛大学医学部医学科卒業。愛媛大学医学部附属病院第三内科での研修後、宇和島社会保険病院(現JCHO宇和島病院)、愛媛大学医学部附属病院第三内科、愛媛県立中央病院糖尿病・内分泌・代謝内科を経て、2008年より松山市民病院内科に勤務。2015年より同院内科部長。2021年5月にみかんの花クリニック 糖尿病・内分泌・代謝内科を開院し、現在は理事長・院長。医学博士、所属学会は日本内科学会(総合内科専門医、指導医、四国支部評議員)、日本肥満学会(専門医、指導医、評議員)、日本糖尿病学会(専門医、指導医)、日本内分泌学会(専門医、指導医、評議員)、日本甲状腺学会(専門医)、日本病態栄養学会(専門医、指導医)など。