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【肥満症手術の基礎知識】保険適用基準や安全性・費用、術後の生活まで解説

この記事でわかること
  1. 対象者と手術の仕組み
  2. 保険適用と費用の目安
  3. リスクと術前・術後の流れ

食事療法や運動、薬物療法といった内科的治療を継続しても十分な減量効果が得られず、糖尿病や高血圧などの合併症が十分に改善しないケースが存在します。このような状況に対し、治療選択肢として検討されるのが「肥満外科手術(減量・代謝改善手術)」です。

手術の検討に際しては、手術そのものに伴う身体的負荷や合併症リスクだけでなく、保険適用の可否、それに伴う医療費なども含めて考えることが重要です。この記事では、日本における肥満症に対する外科手術の位置づけ、具体的な各種術式の特徴、健康保険の適用要件、そして術後の生活に影響を及ぼすリスクについて解説します。

肥満外科手術の位置づけと対象者

肥満症治療における外科手術は、見た目を整えるための美容整形とは異なり、健康に関わる合併症を改善するための医学的な治療として位置づけられています。

肥満症治療における「外科手術」とは

肥満外科手術(減量・代謝改善手術)は、食事療法、運動療法、薬物療法などの内科的アプローチを継続的に行っても十分な治療効果が得られず、一定の適応条件を満たす肥満症の患者さんが対象です。解剖学的に胃容積を制限する、あるいは栄養の吸収経路を迂回させることにより、食事量の減少や代謝状態の改善を物理的・生理学的に誘導します。

高度肥満症の患者さんにおける過食や体重コントロールの困難さは、個人の意思の弱さや自己管理能力の不足だけが原因ではありません。近年の研究によって、高度肥満には遺伝的・環境的要因に加え、食欲やエネルギー代謝に関わるホルモンの働きなどが複雑に関わることが明らかにされています。外科手術は、物理的なアプローチによって体重減少や合併症の改善を目指す治療として位置づけられています。

手術による減量効果

肥満外科手術は、従来の生活習慣介入や内科的治療と比べ、より大きな減量効果が期待できることが示されています。術式や患者さんによって差はありますが、超過体重(標準体重を超える余分な体重)の減少率が50%以上に達することも少なくありません。

また、体重減少や代謝状態の改善に伴い、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)などの合併症の改善が認められています。

保険適用で手術を受けるための条件

保険適用で手術を受けるための条件
Geminiで生成した画像を元に作成

日本国内で肥満外科手術を保険診療として受けるには、国が定める保険適用の条件を満たす必要があります。

まず、前提として、少なくとも6か月以上、医師や管理栄養士の指導のもとで食事療法・運動療法などの内科的治療を行っても、十分な効果が得られないことが条件になります。

その上で、以下のいずれかを満たす必要があります。

  • BMI(体格指数)が35以上で、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、OSAS、または非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を含むNAFLDのうち、1つ以上を合併している場合。
  • BMIが32~34.9で、糖尿病(HbA1c 8.0%以上)、高血圧症、脂質異常症、OSAS、またはNASHを含むNAFLDのうち、2つ以上を合併している場合。

なお、保険診療で手術を実施できるのは、厚生労働省が定めた施設要件を満たした医療機関に限られます。

肥満外科手術の種類と特徴

肥満症を対象とする外科手術は、それぞれ異なる特徴を有しています。ここでは、国内外で行われてきた代表的な肥満外科手術の特徴を紹介します。なお、術式によっては現在の日本では保険適用外、または実施施設が限られるものがあります。

腹腔鏡下スリーブ状胃切除術

腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は、日本において一定の条件を満たす場合に保険適用されている術式です。おなかに開けた小さな入口から腹腔鏡を挿入し、胃の大弯側(外側の膨らんだ部分)の大部分を縦方向に切除し、細い筒状に再建します。

この術式により、胃容積が大幅に縮小するため、少量の食事で満腹感が早期に得られるようになるとされます。また、切除によって食欲亢進に関わるホルモン「グレリン」を作る細胞の数が減少するため、空腹感自体が減弱する効果も期待できます。消化吸収経路のバイパスを伴わないため、ほかの術式に比べて術後のビタミンやミネラルの吸収障害のリスクが比較的低いとされます。

腹腔鏡下調節性胃バンディング術

腹腔鏡下調節性胃バンディング術は、胃の上部周囲に調節可能なシリコン製のバンドを留置し、胃を2つの区画に仕切ることで食べ物の通過を制限する術式です。術後に体外からバンドの内径(締め付け強度)を調整できるのが特徴です。

この術式は長期的にはバンドの胃壁への侵食やバンドのずれに加え、十分な減量効果が得られないことによる再手術率の高さが課題とされます。また、ほかの術式に比べて長期的な減量効果が劣ることが報告されています。

腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術

腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術は、胃の上部を小さな袋(パウチ)に分離し、そこに小腸の一部を直接吻合して食べ物が大部分の胃と十二指腸を迂回する経路を作成する術式です。胃容積の物理的制限による食事量の減少に加えて、消化吸収経路を短縮することによる吸収抑制効果があるとされます。

ただし、この術式では、残った胃に内視鏡が届きにくく、胃がんの検査・発見が難しくなるリスクが指摘されています。また、生涯にわたって、サプリメントによる鉄・カルシウム・ビタミンB12などの補給が必要になることがあります。

腹腔鏡下スリーブバイパス術

腹腔鏡下スリーブバイパス術は、胃を縦方向に細長く切除する「スリーブ状胃切除」に、小腸の一部をバイパスする方法を組み合わせた高度な術式です。胃切除による食事量の制限と、消化経路変更による吸収抑制の2つの効果を目指して設計されています。

ルーワイ胃バイパス術に比べ、術後も胃の内視鏡検査を行いやすいよう工夫された術式とされています。また、鉄分やビタミンなどの栄養素の吸収も比較的保たれやすいとされます。胃の切除単独の手術よりも減量効果や、血糖値・尿酸値などの改善効果も高いという報告もあります。

この術式は先進医療として実施されてきましたが、有効性が評価され、2024年の診療報酬改定において新たに公的医療保険の適用対象に追加されました。

日本国内の状況

日本では、肥満外科手術の中で腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が最も多く行われています。2005~2015年に行われた調査では、約800例のうち約60%が腹腔鏡下スリーブ状胃切除術だったと報告されています。

2021~2024年の全国調査でも、日本の腹腔鏡下減量・代謝改善手術は年間900例前後で推移しており、スリーブ状胃切除術が中心的な術式とされています。2024年にスリーブ状胃切除にバイパス術を伴う術式が保険適用に加わったことから、今後は同術式が選択される機会が増える可能性があります。

肥満外科手術のリスクについて

外科的介入である以上、一定の術中・術後合併症リスクと身体的な変化への対応が必要になります。この項目では、発生し得る具体的な医学的リスクと、医療機関で行われる安全性確保に向けた対応を取り上げます。

術後に合併症を起こす可能性がある

術後早期の主なリスクとしては、胃の切除断端や吻合部から消化液が漏出する「縫合不全」や、術後の「腹腔内出血」が挙げられます。また、肥満のある患者さんでは、手術中および術後に下肢の静脈に血栓が生じるリスクがあります。下肢の血栓は肺に流れると「肺塞栓症」を起こす場合があるため、厳格な管理が必要となります。

長期的に生じる可能性がある主なリスクには、以下があります。

  • ダンピング症候群:胃の容積減少やバイパスにより、食物が胃から小腸へ急速に流入することで、吐き気や下痢などの症状を引き起こす現象です。
  • 長期的な栄養障害:胃酸分泌機能の低下や吸収経路の迂回に伴い、カルシウム、鉄分、葉酸、ビタミンB12などの栄養素が十分に体内に吸収できず、貧血や骨粗しょう症、神経障害を引き起こすリスクがあります。
  • 逆流性食道炎:胃の形状変化や機能の低下に伴い、胃液が食道へ逆流する逆流性食道炎を引き起こすことがあります。

医療機関で行われる対策

上述の合併症を予防し、安全な減量を達成するため、肥満外科手術を行う医療機関では医師や看護師、管理栄養士など、さまざまな職種のスタッフから成るチームを組織しています。身体的なケアに加え、術後の急激な変化や食事制限などによるストレスに対する精神的なサポートも行われます。

術後に自己判断で治療をやめてしまうと、重篤な栄養障害やリバウンドを引き起こす可能性が高まります。医療機関を定期的に受診し、血液検査によるビタミン・ミネラル濃度のモニタリングを欠かさないことが大切です。

保険適用での手術費用の目安

「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」の手術料は診療報酬上は約40万円ですが、保険適用(3割負担とする)であれば約12万円の自己負担となります。ただし、このほかに麻酔料や入院費などがかかります。

日本では、個人の所得水準や年齢に応じて1か月の窓口負担の上限額が設定される「高額療養費制度」を利用することができます。一般的な所得区分(年収約370万〜770万円)の70歳未満の方の場合、例えば医療費の総額が100万円だったとしても最終的な自己負担額は1か月あたり約8.7万円程度に軽減されます。

また、長期にわたって療養を受けられる方のために、直近12か月の間に同制度の対象となる月が3回以上ある場合、4回目以降の限度額がさらに軽減される「多数回該当」といった仕組みも設けられています。

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肥満外科手術を受けるには

肥満外科手術は、思い立ってすぐに受けられるものではありません。安全に手術を受けるためには、手術前から術後にわたる多職種チームのサポートと、患者さん自身の段階的な準備が必要です。ここでは、初診から手術、その後の通院までの一般的な流れを解説します。

肥満症手術を受けるには
Geminiで生成した画像を元に作成

初診と内科的治療の開始

まずは、専門の医療機関(肥満外来など)を受診します。初診では、体重やBMI、合併している健康障害の評価に加え、他の病気が原因で太っているわけではないか(二次性肥満の否定)を確認します。多くの場合、初診後すぐに手術を行うのではなく、まずは食事療法や運動療法、行動療法といった「内科的治療」を行い、減量を目指すことが基本となります。

術前評価と治療計画の作成

内科的治療を6か月以上行っても十分な効果が得られない場合、手術の適応が検討されます。この段階から、内科医や外科医だけでなく、管理栄養士、メンタルヘルス専門職、看護師などから成る「多職種チーム」が関わります。手術に向けて、栄養状態、全身状態、服薬状況、術後の食事管理や通院を続けるために必要な支援などを確認します。手術のリスクや合併症、術後の生活について十分な説明が行われ、患者さんが納得して同意した上で、一人ひとりに合わせた治療計画が作成されます。

手術と術後早期の食事管理

通常、腹腔鏡を用いた手術が行われます。胃が小さくなる、あるいは消化経路が変更されるため、術後は液状の食事から始め、数週間かけて徐々に固形食へと移行する段階的な食事指導が行われます。

退院後の定期的な通院と管理

退院後も、体重や生活習慣病の改善状況を把握するため、定期受診が必要です。また、ビタミンやミネラルなどの栄養状態を確認するため、血液検査を行います。栄養不足を防ぐためのサプリメントの調整や、管理栄養士による食事のサポート、メンタルヘルス専門職による精神的なケアが提供される場合もあります。

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まとめ

肥満外科手術は、内科的治療で十分な効果が得られない肥満症の患者さんにとって、重要な治療選択肢の一つです。しかし、決して「容易に痩せることができる手段」ではなく、胃の切除などの体の構造を変える手術であり、慎重な検討が必要な医療行為です。

まずは専門の医療機関や肥満外来に相談し、手術で得られる健康上の効果とリスクの双方を慎重に検討することが大切です。専門家チームのサポートを受けながら、患者さん自身も生活習慣の改善に主体的に取り組むことが、長期的な健康と体重管理の鍵となります。

参考資料

監修

浦添総合病院

中田 円仁 先生

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