健康診断で「脂肪肝」を指摘されても、自覚症状がないため深刻に受け止めない人は少なくありません。
しかし近年、脂肪肝の中には、放置すると肝臓の炎症や線維化が進行し、肝硬変や肝がんにつながる可能性があるタイプがあることがわかってきました。それがMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎、metabolic dysfunction associated steatohepatitis)です。
MASHは、単に肝臓に脂肪がたまるだけの状態とは異なり、肥満や糖尿病、脂質異常症などの代謝異常を背景に、肝臓で慢性的な炎症が起こる病気と考えられています。不思議なのは、同じように脂肪肝があっても、MASHへ進行する人と、そうでない人がいることです。その違いには、内臓脂肪の増え方やインスリン抵抗性、脂肪による肝細胞へのダメージ、炎症反応の起こりやすさなど、いくつもの要因が複雑に関わっているとされています。
この記事では、MASHはなぜ起こるのか、脂肪肝の一部だけが重症化する理由を、現在わかってきている医学的な知見をもとに、わかりやすく解説します。
MASHの原因は1つではない:なぜ脂肪肝の一部だけが進行するのか
複数の原因が重なって起こる病気
MASHは、ウイルス感染やアルコールのように、はっきりとした単一の原因で起こる病気ではありません。肥満や内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性、脂質代謝の異常、体の中で起こる慢性的な炎症など、いくつもの要因が重なり合うことで発症・進行すると考えられています。
そのため、「脂肪肝がある=必ずMASHになる」というわけではありません。脂肪肝のある人の多くは、肝臓に脂肪がたまっているだけの状態でとどまりますが、複数の原因が同時に重なった場合に、肝臓で炎症が起こり、MASHへと進行することがあります。
「脂肪肝=すぐMASH」ではない理由
脂肪肝は非常に多くの人にみられる状態ですが、そのすべてが危険というわけではありません。肝臓は再生能力の高い臓器であり、多少の脂肪がたまっても、すぐに深刻な障害が起こらないこともあります。
しかし、肥満や糖尿病などの代謝異常が重なり、体の中で炎症が続く状態になると、肝臓への負担は少しずつ蓄積していきます。自覚症状がほとんどないまま、知らないうちに炎症が進行してしまうのが、MASHの特徴です。
肥満と内臓脂肪がMASHの原因になる理由
内臓脂肪が炎症を引き起こす
MASHの原因として特に重要なのが、肥満、とくに内臓脂肪の増加です。内臓脂肪はエネルギーを蓄えるだけでなく、炎症を引き起こす物質を分泌する働きがあります。内臓脂肪が増えると、体の中では軽い炎症が慢性的に続く状態になります。
この炎症は自覚しにくいため、本人が気づかないまま長期間続くことも少なくありません。
肝臓が知らないうちにダメージを受ける
慢性的な炎症は全身に影響を及ぼし、肝臓も例外ではありません。炎症の影響を受けた肝臓では、肝細胞が傷つきやすくなり、脂肪がたまりやすい環境がつくられます。炎症を伴った脂肪の蓄積が、MASHへ進行する大きな原因の一つになります。
インスリン抵抗性がMASHを引き起こす原因とは
インスリンが効きにくくなると体で何が起きるか
肥満や内臓脂肪の増加に伴って起こりやすいのが、インスリン抵抗性です。インスリンは血糖値を下げる重要なホルモンですが、抵抗性が生じると、十分に働かなくなります。
その結果、血液中の糖や脂肪がうまく処理されず、肝臓に過剰な脂肪が流れ込みやすくなります。
糖尿病があるとMASHのリスクが高まる理由
糖尿病やその予備群の人では、インスリン抵抗性が強く、脂肪肝やMASHが起こりやすいことが知られています。肝臓が脂肪を処理しきれなくなることで、炎症や細胞障害が進行しやすくなるためです。
脂肪が肝臓の「毒」になることがMASHの原因に
脂肪毒性(lipotoxicity)とは何か
肝臓にたまった脂肪は、量だけでなく質も重要です。一部の脂肪酸は肝細胞にとって有害に働き、酸化ストレスを引き起こします。この状態は「脂肪毒性」と呼ばれ、MASHの進行に深く関わっています。
肝細胞が壊れていく仕組み
脂肪毒性が続くと、肝細胞のエネルギー産生を担う「ミトコンドリア」の機能が低下し、細胞が正常に働けなくなります。こうしたダメージが積み重なることで、肝臓の炎症が慢性化していきます。
炎症が続くことが線維化の原因になる
肝臓の修復反応が逆に負担になる
肝臓では、炎症によって傷ついた細胞を修復しようとする反応が起こります。しかし、炎症が長期間続くと、この修復反応が過剰になり、線維成分が増えていきます。これが線維化です。
線維化が進むと元に戻りにくい理由
線維化が進行すると、肝臓は次第に硬くなり、元の状態に戻りにくくなります。さらに進むと肝硬変へと至り、肝がんのリスクも高まります。MASHでは、この変化が静かに進むことが特徴です。
なぜ同じ脂肪肝でもMASHになる人とならない人がいるのか
遺伝的な体質が影響する場合
近年、特定の遺伝子の違いが、MASHへの進行リスクに影響する可能性が示されています。遺伝的な体質は自分で変えることはできませんが、リスクを理解することは重要です。
腸内環境や生活習慣が影響する理由
腸内細菌のバランスや食生活、運動習慣などの環境要因も、炎症の起こりやすさに関係していると考えられています。これらは生活習慣の見直しによって改善できる可能性があります。
医師からのメッセージ~「まだ大丈夫」と思っている方へ
MASHは、自覚症状がほとんどないまま進行することが多く、「脂肪肝と言われただけだから大丈夫」と思われがちな病気です。しかし、MASHは放置すると肝臓の線維化が進み、将来的に肝硬変や肝がんにつながる可能性があります。
一方で、MASHは原因少しずつ解明されてきている病気でもあります。肥満や代謝異常、生活習慣が深く関わることに加え、近年では、腸のバリア機能の乱れ(いわゆる「リーキーガット」)が、肝臓の炎症に影響している可能性も指摘されるようになってきました。
つまりMASHは、肝臓だけの問題ではなく、腸・代謝・生活習慣を含めた全身の状態と関係する病気と考えられています。そのため、早い段階でご自身の状態に気づき、体重管理や生活習慣の見直しに取り組むことが、将来の肝臓を守ることにつながります。
健康診断で脂肪肝を指摘された方や、糖尿病・脂質異常症がある方は、「今は症状がないから大丈夫」と考えず、一度医師に相談してください。原因を正しく知ることが、肝臓を守る第一歩です。
参考文献・情報源
- American Association for the Study of Liver Diseases(AASLD)「New MASLD Nomenclature」
- U.S. National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases (NIDDK)「Symptoms & Causes of NAFLD & NASH」
- MedlinePlus(U.S. National Library of Medicine, NIH)「Fatty Liver Disease」
関連記事
- MASHの倦怠感は放置厳禁!原因5つと肥満症患者の最新対策
- MASHとNASHの違いとは?名称変更の理由と診断・治療法を解説
- MASH治療薬の最新情報|セマグルチドの改善効果と副作用を解説
- MASHの診断基準と検査方法:健康診断で脂肪肝と言われた方へ
監修
内田 賢一 先生