近年、体重管理の方法が大きく変わってきています。これまで「意志の力」でがんばるものとされてきたダイエットが、現代の医学では「ホルモンをコントロール」することで効果的にアプローチできるようになってきました。
その中で注目されているのが、GLP-1受容体作動薬です。この記事では「ウゴービ」と「マンジャロ」という2つの薬剤について、効果の違いから費用、副作用、そして選び方のポイントまで、わかりやすく詳しく解説します。
GLP-1受容体作動薬の比較ガイド|肥満症治療における効果・副作用・選び方を徹底解説
ウゴービとマンジャロってどんな薬?
そもそも「インクレチン」とは?体重管理の新しいカギ
まず、これらの薬を理解するために「インクレチン」について知っておきましょう。インクレチンとは、私たちが食事をした時に小腸から分泌される消化管ホルモンの総称です。
インクレチンには主に2つの種類があります:
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1):
- 食後に分泌され、血糖値の上昇を抑える。
- 脳に働きかけて食欲を抑制し、満腹感を高める。
- 胃の動きを遅くして、食べ物の消化・吸収をゆっくりにする。
GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド):
- 血糖値が高い時にインスリンの分泌を促進する。
- 脂肪の代謝に関わる。
- GLP-1と組み合わせることで、強力な食欲抑制効果を発揮する。
通常、これらのインクレチンは食後に分泌されますが、数分で分解されてしまいます。ウゴービとマンジャロは、このインクレチンの働きを長時間持続させるように設計・開発された薬なのです。
ウゴービ(セマグルチド)とは
ウゴービは、デンマークのノボ ノルディスク社が開発したGLP-1受容体作動薬です。実は、糖尿病の治療薬として使われている「オゼンピック」と同じ成分(セマグルチド)ですが、肥満症治療のために量を増やしたバージョンがウゴービです。
日本では2023年3月に承認され、2024年2月から使用できるようになりました。
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マンジャロ(チルゼパチド)とは
マンジャロは、米国のイーライリリー社が開発しました。こちらは糖尿病の治療薬として開発され、日本では2023年4月に承認、同年6月から使用開始されました。従来の薬とは違い、2つのホルモン (GIP, GLP-1)に同時に働きかける「ツインクレチン」と呼ばれる次世代の薬剤です。
海外では、同一成分の薬が「ゼップバウンド」という名前で肥満症治療薬として販売されています。日本でも2025年3月にゼップバウンドが承認され、海外同様に「糖尿病治療ならマンジャロ」「肥満症治療ならゼップバウンド」という使い分けが可能になりました。
なぜ体重が減るの?ウゴービとマンジャロの仕組みを解説
両方の薬は「インクレチン」という体内のホルモンの働きを真似していますが、その仕組みには違いがあります。
ウゴービの仕組み:GLP-1への作用
ウゴービの成分セマグルチドは、体内の「GLP-1」というホルモンの受容体に結合します。おさらいになりますが、GLP-1には以下の3つの働きがあります:
- 脳への作用:脳に直接働きかけて食欲を抑え、満腹感を高めます。
- 胃の動きを遅くする:胃の動きをゆっくりにして、食べたものが腸に送られる時間を延ばします。これにより、食後の満腹感が長時間続きます。
- 血糖値の調整:血糖値が高い時だけインスリンを出して、血糖値を下げます。
マンジャロの仕組み:2つのホルモンへの同時作用
マンジャロの最大の特徴は、GLP-1だけでなく、「GIP」という別のホルモンの受容体にも同時に作用することです。
- GIPとの相乗効果:以前はGIPは減量には向かないと考えられていましたが、最近の研究で、GLP-1と一緒に使うことで、脳の食欲調節センターにより強力に働きかけることがわかりました。
- 脂肪の代謝改善:GIPには脂肪組織の代謝を正常化し、エネルギー消費を効率的にする働きがあることが示されています。
- 副作用の軽減:GIP受容体への刺激は、GLP-1特有の副作用である「吐き気」を和らげる効果があるのではないかと期待されています。
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ウゴービとマンジャロ、どちらがより効果的?臨床試験の結果を比較
ウゴービとマンジャロは対象となる疾患が異なるため、比較が難しい部分がありますが、「セマグルチド(ウゴービの成分)とチルゼパチド(マンジャロの成分)、どちらがより体重を減らせるのか」という疑問に対して、臨床試験の結果は明確な答えを示しています。
セマグルチドの減量効果
糖尿病ではない肥満の成人1,961人を対象とした国際的な臨床試験(STEP 1試験)では、以下の結果が出ています:
- 約1年3か月の使用:平均で体重が14.9%減少
- 体重5%以上減少:86.4%の参加者が達成
- 体重15%以上減少:50.5%の参加者が達成
チルゼパチドの減量効果
糖尿病ではない肥満の成人2,539人を対象とした国際的な臨床試験(SURMOUNT-1試験)で、ウゴービよりもさらに高い数値が記録されました:
- 72週間の使用(15mg使用群):平均で体重が22.9%減少
- 体重5%以上減少:96.3%の参加者が達成
- 体重20%以上減少:64.0%の参加者が達成
日本人を対象とした臨床試験の結果
日本国内で行われた試験でも、同様の傾向が見られます:
- セマグルチド(STEP 6試験):日本人、韓国人のデータで、2.4mg使用により体重が約13%減少
- チルゼパチド(SURMOUNT-J試験):日本人の肥満者を対象とした試験で、15mg使用により20%以上の減少を確認
結論:統計的に見て、チルゼパチドの方がセマグルチドよりも強力な減量効果があることが証明されています。
ウゴービとマンジャロの保険適用条件の違い:費用面での大きな差
日本でこれらの薬を使用する場合、保険制度の違いが非常に重要になります。
ウゴービの場合:厳しい条件をクリアすれば保険適用可能
ウゴービが保険適用となるのは「肥満症」です。
日本肥満症学会の診療ガイドラインでは、肥満症は以下のように定義されています。
「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患」
引用:日本肥満学会編「肥満症診療ガイドライン2022」2肥満症の診断 1肥満症 肥満症の定義
肥満症の診断基準に必須の健康障害としては、以下があります。
「肥満症の診断基準に必要な健康障害は, 1) 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など), 2) 脂質異常症, 3) 高血圧, 4) 高尿酸血症・痛風, 5) 冠動脈疾患, 6) 脳梗塞・一過性脳虚血発作, 7) 非アルコール性脂肪性肝疾患, 8) 月経異常・女性不妊, 9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群, 10) 運動器疾患(変形性関節症:[膝, 股関節・手指関節], 変形性脊椎症), 11) 肥満関連腎臓病, の11疾患である。」
引用:日本肥満学会編「肥満症診療ガイドライン2022」 2肥満症の診断 1肥満症 診断基準
具体的なウゴービの保険適用条件は、以下になります。
- BMIの基準:
- BMI 35kg/m²以上
- または、BMI 27kg/m²以上で、2つ以上の肥満関連疾患(高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれか)がある。
- 治療歴:食事療法・運動療法を6か月以上行っても効果が不十分であること。
- 施設基準:肥満症の治療に詳しい医師が在籍し、管理栄養士による指導が可能な認定施設であること。
- 期間制限:原則として68週間(約1年3か月)までの使用とされることが多い。
マンジャロの場合:肥満症単独での使用は保険適用外
マンジャロは現在、日本において「2型糖尿病」に対して承認されています。そのため、糖尿病ではない人に対しては、保険は適用されません。
減量目的での使用は全額自己負担となるため、薬代だけでなく診察料や検査料も高額になります(自由診療の価格はクリニックにより大きく変動します)。
ウゴービとマンジャロの副作用:リスクと対処法
高い効果がある薬には、必ず副作用のリスクも存在します。
よくある副作用(消化器症状)
両方の薬に共通して、使い始めや量を増やした時に以下の症状が出やすくなります:
- 吐き気・嘔吐:胃の動きがゆっくりになるため、食べ過ぎるとすぐに気分が悪くなります。
- 下痢・便秘:腸内環境の変化により便通が不安定になります。
- お腹の張り:腹部膨満感を感じることがあります。
対処法:
- 最小量から開始し、4週間ごとに慎重に量を増やす。
- ゆっくりと食べる習慣をつけ、満腹中枢が反応する前に食べ過ぎないようにする。
- 必要に応じて吐き気止めや整腸剤を併用する。
注意が必要な重篤な副作用(まれだが重要)
- 急性膵炎:激しい腹痛(背中に突き抜けるような痛み)が特徴です。
- 胆石症・胆嚢炎:急激な体重減少によって胆汁が濃縮され、胆石ができやすくなります。
- 低血糖:他の糖尿病薬を併用していない限りまれですが、血糖値が下がりすぎることがあります。ふらつきや冷や汗がある場合、注意が必要です。
ウゴービとマンジャロの使いやすさの違い:注射デバイスの比較
どちらも週1回の自己注射ですが、注射器(ペン)の形状に違いがあります。
ウゴービのペン
- ダイヤル式:1本のペンで複数回分が含まれているタイプと、使い捨てタイプがあります。
- 針の装着:自分で細い針を装着して使用します。
マンジャロのペン(アテオス)
- オートインジェクター(アテオス):針が内蔵されており、キャップを外して皮膚に押し当て、ボタンを押すだけで完了です。
- 使い捨て:1回使い切りタイプのため、針の付け替え作業が不要で、非常に簡単です。
治療を成功させるための生活習慣
薬はあくまで「サポートツール」です。薬をやめた後のリバウンドを防ぐためには、以下の点が重要です。
栄養面での注意点
- タンパク質の摂取:急激に痩せると筋肉量も落ちやすいため、プロテインや肉・魚・豆類を意識的に摂取しましょう。
- バランスの良い食事:薬で食欲が抑えられても、必要な栄養素はしっかり摂取することが大切です。
運動習慣の重要性
- 筋力トレーニング:代謝を維持するため、週2回程度の筋力トレーニングを行うとよいとされます。
- 有酸素運動:ウォーキングや軽いジョギングなど、継続しやすい運動から始めるとよいでしょう。
心理面でのサポート
- マインドフル・イーティング:ダイエットを「お腹が空いていないのに食べる」という習慣を見直す絶好の機会と捉えましょう。
- ストレス管理:食べること以外のストレス発散方法を見つけましょう。
ウゴービとマンジャロ共通、よくある質問(FAQ)
Q1. どのくらいの期間で効果が現れますか?
A1. 個人差がありますが、4〜8週間で体重減少を実感し始める人が多いとされます。3~4か月継続して、改善傾向がなければ使用を中止します。最大効果は、通常6か月〜1年程度で現れるとされます。
Q2. 薬をやめたらリバウンドしますか?
A2. 薬をやめると食欲が戻るため、生活習慣の改善なしにはリバウンドのリスクがあります。治療期間中に食習慣や運動習慣を身につけることが重要です。
Q3. 他の薬との飲み合わせは大丈夫ですか?
A3. 糖尿病薬との併用時は低血糖のリスクがあります。必ず医師に現在服用中の薬を伝えてください。
Q4. 妊娠中・授乳中でも使用できますか?
A4. 妊娠中・授乳中の使用は推奨されていません。妊娠を計画している場合は、事前に医師に相談してください。
まとめ:体重管理は新時代へ
GLP-1受容体作動薬の登場により、肥満治療は「努力」から「科学」へと大きく進歩しました。
どの薬剤を選ぶにせよ、大切なのは「目先の体重減少」だけでなく、「健康的な生活への変化」です。薬の力を借りながら、食習慣や運動習慣を見直し、長期的に健康を維持できるライフスタイルを築くことが最終的な成功につながります。
まずは信頼できる医療機関でカウンセリングを受け、ご自身の体質とライフスタイルに合った選択を行ってください。これらの薬は、正しく使用すれば人生を変える可能性を秘めた画期的な治療選択肢なのです。
参考資料
- 一般社団法人 日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」
- 厚生労働省「最適使用推進ガイドライン セマグルチド(遺伝子組換え)(販売名:ウゴービ皮下注)令和5年11月(令和7年5月改訂)」「最適使用推進ガイドライン チルゼパチド(販売名:ゼップバウンド皮下注 2.5mg アテオス、同皮下注 5mg アテオス、同皮下注 7.5mg アテオス、同皮下注 10mg アテオス、同 皮下注 12.5mg アテオス、同皮下注 15mg アテオス)令和7年3月」
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「ウゴービ皮下注0.25mgペン1.0MD/ウゴービ皮下注0.5mgペン2.0MD/ウゴービ皮下注1.0mgペン4.0MD/ウゴービ皮下注1.7mgペン6.8MD/ウゴービ皮下注2.4mgペン9.6MD」「マンジャロ皮下注2.5mgアテオス/マンジャロ皮下注5mgアテオス/マンジャロ皮下注7.5mgアテオス/マンジャロ皮下注10mgアテオス/マンジャロ皮下注12.5mgアテオス/マンジャロ皮下注15mgアテオス」「ゼップバウンド皮下注2.5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注7.5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注10mgアテオス/ゼップバウンド皮下注12.5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注15mgアテオス」
- The New England Journal of Medicine「Wilding JPH et al., Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity. N Engl J Med 2021; 384:989-1002」「Jastreboff AM et al., Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity. N Engl J Med 2022;387(3):205-216.」
- THE LANCET Diabetes & Endocrinology「Kadowaki T et al., Semaglutide once a week in adults with overweight or obesity, with or without type 2 diabetes in an east Asian population (STEP 6): a randomised, double-blind, double-dummy, placebo-controlled, phase 3a trial. Lancet Diabetes Endocrinol 2022;10(3):193-206.」「Kadowaki T et al.,Efficacy and safety of once-weekly tirzepatide in Japanese patients with obesity disease (SURMOUNT-J): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled phase 3 trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2025 May;13(5):384-396.」
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監修
中田 円仁 先生