近年、医療ダイエットや糖尿病治療の分野で「チルゼパチド」という有効成分が大きな注目を集めています。この成分を含む薬剤として、日本国内では「マンジャロ」と「ゼップバウンド」という2つの製品が承認されています。
「マンジャロとゼップバウンドは何が違うの?」「どちらの方が痩せる効果が高いの?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。実は、これら2つの薬剤は有効成分も規格も全く同じものですが、国によって認められた「使用目的(適応症)」や「保険適用の条件」に明確な違いがあります。
本記事では、ゼップバウンドとマンジャロの違いについて、効果、副作用、費用、そしてどちらを選ぶべきかのポイントまで、最新の情報を基に徹底解説します。
ゼップバウンドとマンジャロの基本情報
まずは、それぞれの薬剤がどのような目的で開発・承認されたのか、基本的な特徴を整理しましょう。
ゼップバウンドとは?
ゼップバウンド(Zepbound)は、米国の製薬会社イーライリリーが開発した「肥満症治療薬」です。米国では2023年に承認され、その劇的な体重減少効果から大きな話題となりました。
日本国内においても、2024年12月に製造販売承認を取得し、2025年3月に薬価収載、同年4月に発売されました。肥満症の治療薬の新薬であり、従来の治療法で十分な効果が得られなかった肥満症の患者さんにとって、科学的根拠に基づいた新しい治療の選択肢となる可能性があります。
マンジャロとは?
マンジャロ(Mounjaro)は、ゼップバウンドと同じイーライリリー社によって、先行して開発された「2型糖尿病治療薬」です。米国では2022年に、日本では2023年4月に発売されました。
マンジャロは、優れた血糖コントロール改善効果に加えて、副次的に高い減量効果が認められたため、自由診療(自費)による医療ダイエットにも使用されるようになりました。しかし、本来は糖尿病患者の治療を目的とした薬剤であり、ダイエット目的での使用は「適応外使用」となります。
ゼップバウンドとマンジャロ、成分と効果に違いはあるか?
名前の異なる2つの薬ですが、薬剤としての「中身」にはどのような違いがあるのでしょうか。
中身は全く同じ、有効成分「チルゼパチド」
結論から述べると、ゼップバウンドとマンジャロの有効成分はどちらも「チルゼパチド」であり、成分も規格(2.5mg、5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mgの6段階)も全く同じです。
ゼップバウンドとマンジャロの有効成分である「チルゼパチド」は、世界初の「GIP/GLP-1受容体作動薬」です。チルゼパチドは、体内に存在する2つの「インクレチン」というホルモンの働きを模倣する薬剤です。
インクレチンとは?
インクレチンとは、食事が胃や腸を通過する刺激によって、消化管から分泌されるホルモンの総称です。主に以下の2つのホルモンを指します。
- GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1):小腸の下部から分泌され、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促します。また、脳の食欲中枢に作用して満腹感を与えたり、胃の動きを緩やかにして糖の吸収を遅らせたりする働きがあります。
- GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド):小腸の上部から分泌されます。GLP-1と同様にインスリンの分泌を助けるほか、脂肪細胞に働きかけてエネルギー代謝を調節する役割を担っています。
これまでの糖尿病・肥満症治療薬は、GLP-1のみに作用するものが主流でした。しかし、チルゼパチドはGLP-1とGIPの両方の受容体に同時に作用するため、単一のホルモンに働きかけるよりも強力な血糖降下作用と、極めて高い体重減少効果が期待できるのが特徴です。
臨床データに見る効果の比較
成分が同一であるため、得られる医学的な効果も基本的には同等です。
日本人を含む肥満症の患者さんを対象とする臨床試験(SURMOUNT-1試験)の結果によると、チルゼパチドの最大用量である15mgを72週間継続投与した場合、平均して20%以上の大幅な体重減少が報告されています。
マンジャロを用いた糖尿病の患者さんを対象とした試験でも、血糖値(HbA1c)の劇的な改善とともに、顕著な体重減少が確認されています。
ゼップバウンドとマンジャロ、適応症と治療目的の違い:保険が使えるかの境界線
ゼップバウンドとマンジャロの決定的な違いは、厚生労働省が認めた「適応症(対象となる病気)」にあります。
ゼップバウンドの適応症は「肥満症」
ゼップバウンドは「肥満症」の治療薬として承認されており、単に「痩せたい」という理由だけで処方されるわけではありません。
日本では、肥満症は以下のように定義されています。
「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患」
引用:日本肥満学会編「肥満症診療ガイドライン2022」2肥満症の診断 1肥満症 肥満症の定義
肥満に関連する健康障害としては、以下があります。
「肥満症の診断基準に必要な健康障害は, 1) 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など), 2) 脂質異常症, 3) 高血圧, 4) 高尿酸血症・痛風, 5) 冠動脈疾患, 6) 脳梗塞・一過性脳虚血発作, 7) 非アルコール性脂肪性肝疾患, 8) 月経異常・女性不妊, 9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群, 10) 運動器疾患(変形性関節症:[膝, 股関節・手指関節], 変形性脊椎症), 11) 肥満関連腎臓病, の11疾患である。」
引用:日本肥満学会編「肥満症診療ガイドライン2022」 2肥満症の診断 1肥満症 診断基準
さらに、以下の非常に厳しい条件を満たす場合にのみ、ゼップバウンドが保険診療の対象となります。
- 高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを診断されている。
- 食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない。
- かつ、以下のいずれかに該当する。
- BMIが35kg/m²以上である。
- BMIが27kg/m²以上であり、かつ肥満に関連する健康障害(耐糖能異常、高血圧、脳梗塞、非アルコール性脂肪肝など)を2つ以上有している。
自由診療で治療を受ける場合、費用はクリニックによって異なります。
ゼップバウンドを保険診療で使うための施設・医師要件
ゼップバウンドは、どこの病院でも処方してもらえるわけではありません。保険適用で治療を受けるためには、医療機関が以下の厳しい基準(施設基準)を満たしている必要があります。
1. 医療機関の要件(施設基準)
保険診療でゼップバウンドを処方できるのは、原則として日本糖尿病学会、日本内分泌学会、日本循環器学会のいずれかが認定した「認定教育研修施設」に限られます。多くの場合、大学病院や地域の大規模な総合病院がこれに該当します。一般的なクリニック(診療所)では、これらの学会の認定施設となっていない限り、保険診療での処方は実質的に困難です。また、施設内に管理栄養士による栄養指導体制が整っていることも必須条件となります。
2. 医師の要件
処方する医師にも専門性が求められます。
- 医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病ならびに肥満症の診療に5年以上の臨床経験を有していること。
- または、 医師免許取得後、満7年以上の臨床経験を有し、そのうち5年以上は高血圧、 脂質異常症または2型糖尿病ならびに肥満症の臨床研修を行っていること。
- 日本糖尿病学会、日本内分泌学会、日本循環器学会のいずれかの専門医であること。
- 日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい。
3. 治療プロセスの要件
基準を満たす施設であっても、すぐに薬が処方されるわけではありません。
- 6か月以上の継続的な食事・運動療法: 処方を開始する前に、少なくとも6か月間、適切な生活習慣改善の取り組みを行っている必要があります。
- 定期的な栄養指導: その6か月間、2か月に1回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受け、その記録が残されていることが求められます。
4. 処方期間の制限(14日制限)
ゼップバウンドは新薬として扱われるため、発売(2025年4月)から1年間(2026年3月末まで)は、1回につき最大14日分(2週間分)までしか処方できません。そのため、治療開始から1年間は2週間ごとの通院が必要となる点にも注意が必要です。
マンジャロの適応症(2型糖尿病)
一方、マンジャロは「2型糖尿病」の治療薬として承認されています。そのため、糖尿病と診断された患者さんが血糖コントロールのために使用する場合にのみ、保険が適用されます。
肥満症であっても糖尿病の診断がない場合、マンジャロの使用は保険適用外(自由診療)となります。こちらも自由診療での費用は、クリニックによって違います。
ゼップバウンドとマンジャロの副作用・安全性の比較
2つの薬は成分が同じであるため、副作用の傾向も共通しています。
共通する副作用(消化器症状が中心)
最も頻繁に報告されるのは、消化管に関連する症状です。
- 吐き気・嘔吐
- 下痢
- 便秘
- 腹痛
これらの症状は、治療開始直後や用量を増量したタイミングで現れやすいですが、多くの場合は数日から数週間で体が慣れ、軽快していきます。医師の指導のもと、低用量から開始し、段階的に増量していくことで、リスクを最小限に抑えることが可能です。
重篤なリスクと注意点
頻度は極めて低いものの、急性膵炎や腸閉塞、胆石症や胆嚢炎などの胆道系疾患、重度の低血糖などのリスクも報告されています。
主な副作用の出現頻度(添付文書より)
| 症状 | 出現頻度 |
|---|---|
| 吐き気・嘔吐 | 5%以上 |
| 下痢 | 5%以上 |
| 便秘 | 5%以上 |
| 腹痛 | 5%以上 |
| 腹部膨満[加小1] | 1~5%未満 |
| 急性膵炎 | 0.1%未満 |
| 腸閉塞 | 頻度不明 |
| 胆石症 | 1%未満 |
| 胆嚢炎 | 頻度不明 |
| 低血糖 | 頻度不明 |
自己判断での使用や個人輸入は非常に危険であり、必ず専門医の診察と定期的な血液検査を受けながら継続する必要があります。
ゼップバウンドとマンジャロ、選択のポイント
「ゼップバウンド」か「マンジャロ」か、どちらが適切かはご自身の健康状態と目的によって決まります。
ゼップバウンド:肥満症の治療を目的とする人
BMIが35以上、あるいはBMIが27以上で糖尿病・高血圧などの合併症がある人は、ゼップバウンドの保険診療が第一選択となります。ただし、処方できる医療機関が大学病院などの指定施設に限られていたり、半年以上の生活習慣介入が必要だったりと、開始までのハードルが高い点に注意が必要です。
マンジャロ:2型糖尿病の治療を目的とする人
マンジャロは、日本国内において「2型糖尿病」を適応症として承認されている治療薬です 。そのため、本来の目的である血糖コントロールの改善が必要な以下のような人に推奨されます。
- 2型糖尿病の診断を受けている人:医師により2型糖尿病と診断され、医学的な治療が必要と判断された人が対象となります 。
- 食事・運動療法のみでは血糖改善が不十分な人:適切な食事療法や運動療法を継続して行っても、ヘモグロビンA1c(HbA1c)などの数値が目標に達しない場合に、薬物療法の選択肢として検討されます 。
- 医師による厳格な管理のもとで治療を行いたい人:マンジャロは強力な血糖降下作用を持つ薬剤であるため、副作用や低血糖のリスクを管理できる専門医の指導を受けながら、正しく継続できる人に適しています 。
マンジャロは、あくまで糖尿病患者の健康維持と合併症予防を目的とした医薬品です。安易な減量目的での使用は、健康上のリスクを伴うだけでなく、本来必要とする患者さんへの供給に影響を及ぼす恐れがあるため、適応症に基づいた適切な判断が求められます。
ゼップバウンドとマンジャロ まとめ:医学的根拠に基づいた適切な選択を
ゼップバウンドとマンジャロは、どちらも有効成分に「チルゼパチド」を用いた画期的な薬剤ですが、その使用目的と公的保険適用の範囲は明確に区別されています。
- マンジャロは、2型糖尿病の血糖コントロールを改善するための薬剤です。
- ゼップバウンドは、一定の基準を満たす肥満症の患者さんに対し、合併症のリスクを低減させるための薬剤です。
どちらも単に体重を減らすための「ダイエット薬」ではなく、医師の厳格な管理のもとで、食事療法や運動療法と並行して使用されるべき「治療薬」です。特にゼップバウンドの保険適用には、BMI数値だけでなく、合併症の有無や半年間の生活習慣介入といった非常に厳しい条件が設けられており、限られた認定施設でのみ処方が可能です。安易な自己判断や非適応症への使用は、予期せぬ副作用を招くだけでなく、真に治療を必要とする患者さんへの医薬品供給を妨げることにもつながります。
ご自身の状態がどちらの適応に該当するか、あるいは薬物療法が必要な段階にあるかについては、専門医の診察を受け、医学的なエビデンスに基づいた適切な指導を受けることが大切です。健康維持の土台はあくまで適切な生活習慣にあり、薬剤はその補助手段であることを正しく理解し、安全な治療を選択しましょう。
参考資料
- 一般社団法人 日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」
- 厚生労働省「最適使用推進ガイドライン チルゼパチド(販売名:ゼップバウンド皮下注 2.5mg アテオス、同皮下注 5mg アテオス、同皮下注 7.5mg アテオス、同皮下注 10mg アテオス、同 皮下注 12.5mg アテオス、同皮下注 15mg アテオス)令和7年3月」
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「ゼップバウンド皮下注2.5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注7.5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注10mgアテオス/ゼップバウンド皮下注12.5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注15mgアテオス」「マンジャロ皮下注2.5mgアテオス/マンジャロ皮下注5mgアテオス/マンジャロ皮下注7.5mgアテオス/マンジャロ皮下注10mgアテオス/マンジャロ皮下注12.5mgアテオス/マンジャロ皮下注15mgアテオス」
- The New England Journal of Medicine「Jastreboff AM et al., Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity. N Engl J Med 2022;387(3):205-216.」
監修
中田 円仁 先生