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GIPとは?インクレチンの役割と肥満症・糖尿病治療における最新の意義

この記事でわかること
  1. GIPとGLP-1が働く仕組み
  2. 肥満症治療におけるGIPの価値
  3. デュアル作動薬の正しい使い方

1. はじめに:インクレチンとGIPの基本概念

肥満症や2型糖尿病の治療において、近年「インクレチン」という言葉が大きな注目を集めています。

これまで「食事によって血糖値が上がる」という側面ばかりが注目されがちでした。しかし実際には、私たちの体には「食べたことをきっかけに血糖値を下げる準備を整える」仕組みが備わっています。

その中心的な役割を担うのが、腸から分泌されるホルモンの総称であるインクレチンです。食事によって栄養が腸に届くと、腸管の内分泌細胞からインクレチンが分泌され、膵臓のβ細胞に働きかけてインスリン分泌を促します。このように、食事をきっかけにインスリン分泌が強められる現象は「インクレチン効果」と呼ばれています。

インクレチンにはいくつかの種類がありますが、特に重要なのがGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)です。これらは、血糖値の上昇に応じてインスリン分泌を高める働きを持つ消化管ホルモンとして知られています。

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1-1. GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の正体

GIPは42個のアミノ酸からなるポリペプチドです。1970年代に発見された当初は、胃酸の分泌を抑制する働きが注目され「胃抑制ペプチド(Gastric Inhibitory Polypeptide)」と呼ばれていました。しかし、その後の研究でインスリン分泌促進作用が主であることが判明し、現在の名称に変更されたという歴史があります。

2. GIPの生理学的な働きと分泌メカニズム

GIPがどのように分泌され、体内でどのような役割を果たしているのかを詳しく見ていきましょう。

2-1. 分泌源:小腸のK細胞

GIPは、主に十二指腸から空腸上部に存在する「K細胞」と呼ばれる腸内分泌細胞から分泌されます。食事によって糖質(ブドウ糖)や脂質などの栄養が小腸に到達すると、K細胞が刺激され、GIPが血中へと放出されます。

2-2. 「グルコース依存性」という賢い性質

GIPの重要な特徴の一つが、インスリン分泌を血糖値依存的(グルコース依存性)に増強する作用です。血糖値が高い状態では膵臓のβ細胞に働きかけてインスリン分泌を促進しますが、血糖値が正常または低い場合にはその作用は弱まります。この性質は、インクレチン関連薬が単独では低血糖を起こしにくい理由の一つとされています。

2-3. 膵臓以外への多面的な作用

GIP受容体は膵臓のβ細胞だけでなく、脂肪組織や骨組織、中枢神経系などにも分布していることが知られています。脂肪組織ではインスリンと協調して脂質代謝に関与するほか、エネルギー代謝の調節にも関わると考えられています。また近年の研究では、脳の視床下部などに存在する受容体を介して、食欲やエネルギー代謝の調節に関与している可能性も示唆されています。

3. GIPとGLP-1:似て非なる2つのホルモン

インクレチンには、GIPのほかにGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)があります。現在、2型糖尿病や肥満症の治療で広く用いられている「GLP-1受容体作動薬」は、このGLP-1の作用を模倣した薬剤です。

GIPとGLP-1はいずれも腸から分泌され、血糖値の調節に重要な役割を果たすホルモンですが、その分泌部位や生理作用にはいくつかの違いがあります。

3-1. 分泌部位と刺激因子の違い

GIPは主に小腸上部(十二指腸〜空腸)に存在するK細胞から分泌され、糖質や脂質などの栄養刺激によって速やかに分泌されます。一方、GLP-1は小腸下部から大腸にかけて分布するL細胞から分泌され、主に糖質などの栄養刺激に応答して分泌されます。

また、両者は膵臓への作用にも違いがあります。GLP-1はインスリン分泌を促進すると同時にグルカゴン分泌を抑制する働きを持つことが知られています。これに対してGIPは、血糖状態に応じてグルカゴン分泌を調節する作用を持ち、空腹時には分泌を促進し、高血糖時には抑制するなど、状況に応じた調節機構に関与していると考えられています。

3-2. 食欲と体重に対する影響

GLP-1は、胃の内容物が腸へ移動する速度を遅らせる「胃排出遅延」や、中枢神経系への作用を介した食欲抑制効果を持つことが知られており、これらの作用が体重減少に寄与すると考えられています。

一方、GIPの体重への影響については長く議論があり、脂肪代謝への関与などを通じて体重増加にも体重減少にも関わりうる複雑な作用を持つと考えられてきました。しかし近年では、GIPとGLP-1が同時に作用することで、食欲やエネルギー代謝に対して相乗的な効果を示す可能性が示されており、これが新しい肥満症・糖尿病治療薬の開発につながっています。

3-3. なぜ今、GIPが再び注目されているのか

長い間、インクレチン研究や治療薬の中心はGLP-1でした。GLP-1受容体作動薬は血糖改善だけでなく体重減少効果も示すことから、2型糖尿病や肥満症治療の重要な選択肢となっています。

一方で、GIPは単独では糖尿病患者においてインスリン分泌促進作用が弱い可能性が指摘されるなど、その臨床的意義については長らく議論が続いてきました。

しかし近年の研究により、GIPとGLP-1が同時に作用することで、食欲調節やエネルギー代謝に対して相乗的な効果を示す可能性が明らかになってきました。こうした知見を背景に、両者の作用を同時に活性化するGIP/GLP-1受容体作動薬(デュアルインクレチン作動薬)の開発が進み、肥満症および2型糖尿病治療に新しい展開をもたらしています。

4. 肥満症治療におけるGIPの新しい価値

なぜ今、GIPが肥満症治療の分野で改めて注目されているのでしょうか。その背景には、GIPを単独で作用させるのではなく、GLP-1と同時に作用させることで、より強い代謝改善効果が得られる可能性が明らかになってきたことがあります。

日本肥満学会の「肥満症診療ガイドライン2022」では、肥満症を次のように定義しています。

肥満があり,肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか,その合併が予測され,医学的に減量を必要とする病態を肥満症の定義とする

引用:日本肥満症学会「肥満症診療ガイドライン2022」1-1 肥満症の概念と診断・治療

このように、肥満症では単なる体重増加ではなく、医学的に必要な減量を達成することが重要な治療目標となります。その達成を支える新しい治療戦略として、GIPの生理作用が改めて注目されるようになりました。

4-1. デュアルアゴニスト(二重作動薬)の登場

近年、GIP受容体とGLP-1受容体の両方を刺激する薬剤(デュアルインクレチン受容体作動薬)が開発され、臨床試験ではGLP-1受容体作動薬単独よりも大きな体重減少効果が示されています。

GIPは、GLP-1と同時に作用することで、食欲調節やエネルギー代謝に対して相補的または相乗的な作用を示す可能性が指摘されています。また、一部の研究では、GIP受容体の活性化がGLP-1による消化器症状(吐き気など)の影響を調整する可能性も示唆されています。

こうした知見を背景に、GIPとGLP-1の両方の作用を活用した新しい治療薬が、肥満症および2型糖尿病の治療に新しい選択肢をもたらしています。

4-2. エネルギー消費の最適化

GIP受容体は脂肪組織にも発現しており、脂肪細胞の代謝調節に関与することが知られています。近年の研究では、GIPが脂肪組織の機能やエネルギー代謝の調節に関与し、代謝の健全性を改善する可能性が示唆されています。

こうした作用は、単なる体重減少にとどまらず、肥満に関連する代謝異常の改善、いわゆるメタボリックドミノの進行を抑える効果につながる可能性があると考えられています。

5. 臨床応用:GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」

GIPの生理作用を治療に応用した代表的な薬剤が、GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」です。これは、GIP受容体とGLP-1受容体の両方に作用する世界初のデュアルインクレチン受容体作動薬として開発されました。

日本では、この薬剤は適応によって商品名が異なります。

2型糖尿病治療薬としては「マンジャロ」、肥満症治療薬としては「ゼップバウンド」の名称で承認されています。

5-1. ツインクレチンという新しい治療概念

チルゼパチドは、GIPとGLP-1の両方の受容体を活性化する単一の分子として設計されています。

大規模臨床試験であるSURPASS試験(2型糖尿病)やSURMOUNT試験(肥満症)では、血糖コントロールの改善に加え、従来のGLP-1受容体作動薬と比較してより大きな体重減少効果が示されました。

こうした結果は、GIPとGLP-1を同時に活性化するという新しい治療戦略が、糖尿病および肥満症治療において重要な可能性を持つことを示しています。

5-2. 肥満症治療との関係

肥満症の治療では、食事療法や運動療法を基本としながらも、医学的に減量が必要な場合には薬物療法が選択されます。

チルゼパチドは肥満症を対象とした臨床試験でも有効性が示されており、肥満症治療薬としてゼップバウンドの名称で承認されています。インクレチンの生理作用を応用したこの治療法は、従来の治療だけでは十分な減量が得られなかった患者に対する新しい選択肢として注目されています。

6. 治療における注意点と副作用

GIP/GLP-1受容体作動薬は、血糖改善や体重減少に高い効果が期待できる一方で、副作用や注意点について正しく理解したうえで使用することが重要です。

6-1. 消化器系の副作用

最も多くみられる副作用は、吐き気、下痢、便秘、嘔吐などの消化器症状です。

これらは治療開始時や用量を増やしたタイミングで起こりやすいことが知られています。多くの場合、体が薬に慣れるにつれて軽快するとされていますが、症状が強い場合には医師の判断により用量調整などが行われます。

6-2. 使用に注意が必要なケース

インクレチン関連薬は膵臓や消化管、内分泌系に作用するため、患者さんの背景や既往歴に応じて慎重な判断が必要とされます。主な注意点として、以下が挙げられます。

  • 膵炎の既往:インクレチン関連薬と膵炎との関連については慎重な観察が必要とされており、膵炎の既往がある場合には医師による十分な評価が必要です。
  • 甲状腺疾患の家族歴:動物実験では甲状腺C細胞腫瘍の発生が報告されていることから、甲状腺髄様がんや多発性内分泌腫瘍症(MEN2)の既往または家族歴がある場合には注意が必要とされています。
  • 1型糖尿病・糖尿病ケトアシドーシス:これらの薬剤はインスリンの補充療法ではないため、1型糖尿病や糖尿病ケトアシドーシスの治療には使用されません。
  • 胆嚢関連疾患(胆石・胆嚢炎):体重減少や消化管ホルモンの作用に関連して、胆石症や胆嚢炎のリスクが報告されています。腹痛などの症状がみられた場合には、速やかに医療機関を受診することが重要です。
  • 高齢者では、体重減少に伴う筋肉量の低下やフレイル(虚弱)の進行が問題となる場合があり、年齢や全身状態を踏まえた慎重な治療選択が求められます。

6-3. 「魔法の杖」ではないという認識

GIP/GLP-1受容体作動薬は肥満症治療の有力な選択肢ですが、生活習慣の改善を代替するものではありません。

肥満症治療では、食事療法や運動療法を基本としながら、必要に応じて薬物療法を併用することが重要とされています。筋肉量を保ちながら健康的に体脂肪を減らすためには、適切な栄養摂取と身体活動の継続が不可欠です。薬剤はあくまでその取り組みを支える補助的な治療手段として位置づけられます。

7. おわりに:正しい医学的管理下での治療を

GIPというホルモンの発見とその研究の進展は、肥満症や2型糖尿病の理解、そして治療の可能性を大きく広げてきました。私たちの体に備わっている「食事に応じて代謝を調整する仕組み」を活用するインクレチン関連治療は、近年の肥満症・糖尿病治療において重要な役割を担うようになっています。

一方で、インターネット上ではこれらの薬剤を「ダイエット薬」として紹介する不正確な情報も見られます。インクレチン関連薬は医療用医薬品であり、適応や副作用を踏まえた適切な医学的管理のもとで使用されるべき薬剤です。自己判断での使用は思わぬ健康被害につながる可能性があります。

肥満症は単なる体重の問題ではなく、さまざまな健康障害と関連する医学的に治療が必要な疾患です。体重や血糖値について不安がある場合には、自己流の対策だけに頼らず、医療機関で相談することが大切です。専門医のもとで適切な治療を受けることで、生活の質の向上や将来の健康リスクの低減につながる可能性があります

参考資料

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監修

さくら在宅クリニック 院長

内田 賢一 先生

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