「医療ダイエット」で注目を集める「リベルサス」と「マンジャロ」。どちらも血糖値を下げ、食欲を抑制する効果が期待できる薬剤ですが、これらは本来「2型糖尿病」の治療を目的とした医療用医薬品です。
「どちらの方が痩せるのか」という点に注目が集まりがちですが、成分や投与方法、そして健康リスクには大きな違いがあります。この記事では、それぞれの特徴を正しく理解し、適切な医療判断を行うための情報を整理して解説します。
リベルサスとマンジャロの基礎知識:「インクレチン」とは?
インクレチンの主な役割
リベルサスやマンジャロのメカニズムを理解するために欠かせないのが、私たちの体内に備わっている「インクレチン」というホルモンです。
インクレチンは、食事を摂取した際に小腸から分泌されるホルモンの総称です。主に以下の2つがあります。
- GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1):脳の満腹中枢に働きかけて食欲を抑えるほか、胃の動きを緩やかにして満腹感を長続きさせます。
- GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド):GLP-1と同様にインスリン分泌を促すほか、脂肪代謝の調整に関わります。近年、GLP-1と組み合わせることでより高い体重減少効果が得られることがわかってきました。
リベルサスやマンジャロは、インクレチンの働きを模倣することで、自然に食欲を抑え、血糖値を下げたり、痩せやすい状態をサポートする効果があります。
リベルサスとマンジャロの基本情報
どちらもインクレチンの力を利用した薬ですが、アプローチが異なります。
リベルサス(セマグルチド)
世界で初めて登場した「経口タイプ(飲み薬)」のGLP-1受容体作動薬です。
- 投与方法:1日1回、起床時の空腹時に少量の水で服用。
- 特徴:注射が不要なため、針に対する抵抗感がある方でも治療を継続しやすいのが最大のメリットです。
- 用量:3mg/7mg/14mg
マンジャロ(チルゼパチド)
GLP-1とGIPという2つの受容体に同時に作用する、世界初の「持続性GIP/GLP-1受容体作動薬」です。
- 投与方法:週1回、自身で皮下注射(専用デバイスを使用)を行う。
- 特徴:2つのホルモン経路を刺激するため、リベルサスを含む従来のGLP-1単独に作用する薬剤よりも強力な血糖降下・体重減少効果が報告されています。
- 用量: 2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mg
【比較表】リベルサスとマンジャロの違い
| 比較項目 | リベルサス | マンジャロ |
|---|---|---|
| 主な成分 | セマグルチド | チルゼパチド |
| 作用 | GLP-1のみ | GLP-1 + GIP |
| 投与方法 | 経口薬(錠剤) | 注射(週1回) |
| 用量 | 3mg/7mg/14mg | 2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mg |
| 減量効果 | 緩やか〜標準的 | 強力 |
| 主な副作用 | 吐き気、下痢、便秘 | 吐き気、下痢、便秘(頻度は高め) |
リベルサスとマンジャロの効果の違い
どちらも体重を減少させる効果がありますが、そのメカニズム(仕組み)や体重の減り方には違いがあります。
作用メカニズムの比較
- リベルサス:GLP-1受容体にのみ作用し、インスリン分泌を促進して血糖値を下げるとともに、脳に働きかけて食欲を抑制します 。
- マンジャロ:GLP-1に加えてGIP受容体にも作用します。GIPは脂肪代謝を改善する働きもあり、GLP-1との相乗効果でより強力な体重減少効果を示します。
体重減少効果はどっちが高い?
臨床試験の結果では、一般的にマンジャロの方が高い効果が示されています。
- リベルサス:14mgの継続服用で数kg程度の減量効果が一般的ですが、マンジャロに比べると緩やかな傾向にあります。
- マンジャロ:国内外の試験において、高用量を使用した場合、1年以上の継続で15〜20%以上の大幅な体重減少が報告されています。
リベルサスとマンジャロの副作用と健康リスクについて
どちらの薬剤も、使い始めに消化器系の副作用が出やすいという共通点があります。
消化器症状
吐き気、嘔吐、下痢、便秘。これらは胃の動きが緩やかになるために起こります。
低血糖
単剤での使用ではまれですが、他の糖尿病薬と併用する場合は注意が必要です。
重篤なリスク
頻度は低いものの、急性膵炎などのリスクも報告されています。
主な副作用の出現頻度(添付文書より)
| 症状 | リベルサス(セマグルチド) | マンジャロ(チルゼパチド) |
|---|---|---|
| 悪心(吐き気) | 5.0%以上 | 5%以上 |
| 嘔吐 | 1~5%未満 | 5%以上 |
| 下痢 | 5.0%以上 | 5%以上 |
| 便秘 | 1~5%未満 | 5%以上 |
| 低血糖 | 頻度不明 | 頻度不明 |
| 急性膵炎 | 0.1% | 0.1%未満 |
副作用の発生率は、作用が強力なマンジャロの方がやや高い傾向にあります。また、一般的に用量が増えるほど「体重減少効果」は強くなりますが、同時に「副作用の出現頻度」も高くなる傾向があります。どちらの薬も自己判断で使用するのは非常に危険です。必ず医師の指示に従ってください。

リベルサスとマンジャロの保険適用に関する基準
リベルサスとマンジャロを使用する際、もっとも注意すべきなのが「保険適用の有無」です。
原則として減量目的は「自由診療」
リベルサスおよびマンジャロは、本来「2型糖尿病」の治療薬として厚生労働省から承認されている薬剤です。そのため、保険が適用されるのは医師によって「2型糖尿病」と診断され、その治療のために処方される場合に限られます。
糖尿病の診断がなく、減量や美容目的で処方される場合は自由診療(全額自己負担)になります。薬剤費だけでなく、診察料や検査代もすべて自己負担です。費用はクリニックによって、さまざまです。
肥満症の治療薬:ウゴービ、ゼップバウンド
セマグルチドは「ウゴービ」、チルゼパチドは「ゼップバウンド」という製品名で、「肥満症」の治療薬として承認されています。ただし、どちらも保険適用を受けるためには、肥満症であることに加えて、非常に厳しい基準をクリアする必要があります。
【参考】肥満症の定義
日本では、肥満症は以下のように定義されています。
「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患」
引用:日本肥満学会編「肥満症診療ガイドライン2022」2肥満症の診断 1肥満症 肥満症の定義
肥満に関連する健康障害としては、以下があります。
「肥満症の診断基準に必要な健康障害は, 1) 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など), 2) 脂質異常症, 3) 高血圧, 4) 高尿酸血症・痛風, 5) 冠動脈疾患, 6) 脳梗塞・一過性脳虚血発作, 7) 非アルコール性脂肪性肝疾患, 8) 月経異常・女性不妊, 9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群, 10) 運動器疾患(変形性関節症:[膝, 股関節・手指関節], 変形性脊椎症), 11) 肥満関連腎臓病, の11疾患である。」
引用:日本肥満学会編「肥満症診療ガイドライン2022」 2肥満症の診断 1肥満症 診断基準
リベルサスとマンジャロ、どちらを選ぶべきか?
ライフスタイルや健康状態によって、適した薬剤は異なります。
リベルサスが向いている人
- 注射が苦手で、飲み薬を希望する
- 毎日決まった時間に服用する習慣を維持できる
- 比較的マイルドな効果から始めたい
マンジャロが向いている人
- BMIが高く、より強力な体重減少が必要と医師が判断した
- 毎日薬を飲むのが手間に感じ、週1回の対応で済ませたい
リベルサスとマンジャロ まとめ:医師の診断を受けることが重要
リベルサスとマンジャロは、単なる「痩せ薬」ではなく、ホルモンに働きかける強力な医療用医薬品です。不適切な使用は健康を損なう恐れがあるため、必ず専門のクリニックや病院を受診してください。
減量を成功させるには、薬剤の力だけでなく、医師の指導による食事管理と適度な運動が不可欠です。まずは自身の体質や健康状態を相談することから始めましょう。
参照資料
- 一般社団法人 日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」
- 厚生労働省「最適使用推進ガイドライン セマグルチド(遺伝子組換え)(販売名:ウゴービ皮下注)令和5年11月(令和7年5月改訂)」「最適使用推進ガイドライン チルゼパチド(販売名:ゼップバウンド皮下注 2.5mg アテオス、同皮下注 5mg アテオス、同皮下注 7.5mg アテオス、同皮下注 10mg アテオス、同 皮下注 12.5mg アテオス、同皮下注 15mg アテオス)令和7年3月」
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「リベルサス錠3mg/リベルサス錠7mg/リベルサス錠14mg」「マンジャロ皮下注2.5mgアテオス/マンジャロ皮下注5mgアテオス/マンジャロ皮下注7.5mgアテオス/マンジャロ皮下注10mgアテオス/マンジャロ皮下注12.5mgアテオス/マンジャロ皮下注15mgアテオス」
監修
中田 円仁 先生