- 医師が減量を勧める本当の理由
- 取り組みやすい最初の減量目標
- 病院で保険が適用される治療法
医師から「体重を減らしましょう」と言われると、不安や戸惑いを感じる方も多いでしょう。しかし、肥満は自覚症状が少ないものの、体内では静かに健康障害が進行している可能性があります。
この記事では、医師が減量を勧める医学的背景、適正な減量目標とその理由、無理なく実践できる習慣、そして治療が必要な場合の医療的な支援について、わかりやすくご紹介します。
医者が減量を勧める理由
医師が減量を勧める背景には、体重そのものよりも、内臓脂肪や関節への負担を減らし、これからの健康を守るという目的があります。

内臓脂肪が血管に少しずつ負担をかけるから
体脂肪、特に内臓の周りに蓄積する「内臓脂肪」が過剰になると、全身の健康にさまざまな影響を及ぼすことがわかっています。内臓脂肪が増えると、血圧を上げたり、血糖値をコントロールするホルモン(インスリン)の働きを妨げたりする物質が分泌されやすくなります。その結果、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を引き起こすリスクが高まってしまいます。
医師が減量を勧めるのは単に体重の数値を減らすためではなく、将来的な動脈硬化や生活習慣病を予防するための予防的な目的があるのです。
骨や関節に負担がかかるから
体重が増えると、膝や腰、股関節などの荷重関節には大きな負担がかかります。特に膝は歩く、立ち上がる、階段を使うといった日常動作で繰り返し負荷がかかるため、体重の影響を受けやすい関節です。
実際、体重が重い状態が続くと、変形性膝関節症のリスクも高まります。スペインで行われた大規模研究では、BMIが標準範囲の人と比べて、BMIが25以上30未満の人では変形性膝関節症のリスクが約2倍、BMIが30以上35未満の人では約3.1倍、BMIが35以上40未満の人では約4.7倍に上昇したと報告されています。
減量はこうした負担を減らすのに有効です。少しの体重減でも関節への負担を軽減できるため、医師は体重管理を勧めることがあるのです。
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医者に減量を勧められるBMIの基準と「3%減量」目標
医学的に減量が必要とされる基準は、国際的な体格指数である「BMI(Body Mass Index)」をベースに判断されます。
BMIの計算と肥満・肥満症の定義
BMIは、以下の計算式で算出することができます。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
日本ではBMIが25以上の場合を「肥満」と判定し、肥満に起因・関連する健康障害を合併している場合や内臓脂肪が過剰に蓄積している状態を、医学的に治療が必要な「肥満症」と呼びます 。
なぜ3%の減量が推奨されるのか
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、目標とするBMIの範囲(18歳以上)を年齢層ごとに以下のように定めています。
- 18歳 〜 49歳:BMI 18.5~24.9
- 50歳 〜 64歳:BMI 20.0~24.9
- 65歳 〜 74歳:BMI 21.5~24.9
- 75歳以上:BMI 21.5~24.9
この目標は、成人を対象とした研究において報告された「総死亡率が最も低かったBMIの範囲」や日本人のBMIの実態などを総合的に検討して設定されたものです。
しかし、最初から無理をして、この標準的な範囲までの大幅な減量を目指す必要はありません。それは、少しずつの減量でも健康には十分良い影響を及ぼすことが示されているためです。
肥満症またはメタボリックシンドロームを有している日本人男女3,480人を対象に行われた研究において、6か月間で3~5%の減量により、血圧や血糖値、コレステロール値といった検査数値に確かな改善効果が現れることがわかりました。
まずは、現体重から「3%の減量」を目指すことが、現実的で取り組みやすい第一歩となっています。例えば、現在の体重が80kgの方であれば、3%の減量は「2.4kg」です。「これくらいなら、自分にもできそうだ」と感じられるのではないでしょうか。
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無理なく生活に取り入れやすい4つの習慣
減量において大切なことは、一時的に無理をして急激に体重を落とすことではありません。短い時間で厳しい我慢をして減量できたとしても、元の生活に戻ったとたんにリバウンドしてしまっては、心や体に大きな負担をかけることになってしまうためです。
減量を行う本来の目的は、健康な状態をこれからの生活においても無理なく継続していくことにあります。そのためには、日々の暮らしの中で、自然と続けていけるような習慣を少しずつ作っていくことが大切です。
ここでは、明日からすぐに取り入れられる4つの具体的なアプローチをご紹介します。

1)1日に摂取しているカロリーを知る
「減量のために何かを我慢したり、忙しい毎日の中でわざわざ運動の時間を作ったりするのは大変そう」と感じる方は、まずは、自分が毎日どれくらいのエネルギー(カロリー)を摂っているのか、大まかに知ることから始めてみてはいかがでしょうか。自分の状態を知ることは「セルフモニタリング」と呼ばれ、医療の現場でも用いられることがあります。
カロリー計算と聞くと面倒に感じるかもしれませんが、スマートフォンの無料アプリを使えば、食べた食事のメニューを選ぶだけで自動的にカロリーを計算してくれるため、手軽に行えます。また、アプリを使わずに「ノートにその日食べたものをメモするだけ」でも十分に効果があります。
このように自分の口にしたものを「記録して客観的に見つめ直す」だけでも、無意識に選んでいた間食を控えたり、飲み物の砂糖を減らしたりといった、自然な変化が期待できます。まずは1週間、無理のない範囲で食事内容を書き留めることから始めてみましょう。
2)食べる順番を変えてみる
食事の制限を辛いと感じる方におすすめなのが、食べる量や内容を大きく変えるのではなく、口に運ぶ「順番」を変える方法です。食事の最初に野菜やきのこ類、海藻類などの食物繊維を多く含むおかずから食べ進める「ベジタブルファースト」を意識してみましょう。
最初に食物繊維が豊富な食品を口に入れることで、小腸での糖質の吸収が穏やかになり、食後の血糖値の急激な上昇を抑えることができます。血糖値が緩やかに上がると、体に脂肪を溜め込む働きを持つホルモン(インスリン)の過剰な分泌が抑えられ、太りにくい体質へとつながります。
順番は「①野菜・スープ→②肉や魚などのメインのおかず→③最後にご飯やパンなどの炭水化物」の順が推奨されます。この方法であれば、好物の主食を極端に制限することなく、食べる順番を変えるだけで減量効果が期待できます。
3)通勤や買い物を運動の時間にする
運動をするために、ジムに通ったりまとまった時間を確保したりすることは、必ずしも必要ではありません。「忙しくて、運動する時間が取れない」という方も、日常の移動や買い物の時間を、そのまま「軽い運動」に変えてみましょう。
例えば、以下の行動を取り入れるだけで、消費エネルギーを増やすことができます。
- 駅やオフィスではエスカレーターやエレベーターを使わず、なるべく階段を使う
- 通勤時に、いつもより一駅手前で降りて15分ほど多く歩く
- 買い物の際、スーパーの遠めの駐車場に車を停めて歩く距離を増やす
- 歩くときに、少し大股での歩行や早歩きを意識する
このように、日々の生活の中でのこまめな身体活動を増やすことは、特別な運動を行うのと同様に、1日の総消費エネルギーを高めることがわかっています。
4)「ながら筋トレ」をする
自宅でくつろいでいる時間や、ちょっとしたスキマ時間に行える「ながら筋トレ」を取り入れてみましょう。筋肉量が増えると、体が何もしなくても消費するエネルギーである「基礎代謝」が上がり、日常生活を送っているだけでエネルギーを消費しやすい体へと変化していきます。
特におすすめなのが、人間の体の中で最も大きな筋肉が集まっている「太もも」や「お尻」を刺激する運動を普段の生活に取り入れることです。例えば、こんな方法があります。
- テレビを見ながら、ゆっくりと腰を落としてスクワットを10回行う
- 歯を磨きながら、つま先立ちをしてかかとの上下運動を20回行う
- デスクワーク中、両膝をしっかりと閉じて座り、太ももの内側に力を入れる
こうした簡単なトレーニングであれば、生活の一部として自然に取り入れることができ、無理なく筋肉量を維持していくことができます。
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「肥満症」なら病院で治療する選択肢も
もし、ご自身の状態が健康障害を伴う「肥満症」に該当する場合、医療のサポートを受けて治療することが選択肢のひとつとなります。
日本肥満学会編集の「肥満症診療ガイドライン2022」では、肥満症は次のように定義されています。
肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患。
引用:日本肥満学会編「肥満症診療ガイドライン2022」第1章-1 肥満症の概念と診断・治療
つまり、肥満症とは単に体重が多い状態を指すのではなく、肥満によって健康への影響が出ている、または今後その可能性が高く、医学的に減量が必要と判断される状態を指します。
医学的根拠に基づく減量のサポートが受けられる
肥満症の場合は、病院の専門外来(肥満外来や糖尿病内科など)を受診することで、安全かつ効率的に治療を進めることができます。
病院での肥満症治療では、専門知識を持った医師、管理栄養士、理学療法士などの医療スタッフによるチームからの包括的なサポートを受けることができます。
例えば、医師はあなたの血液データや合併症の状況を診断し、体に負担の少ない安全なペースでの治療計画を立てます。また、管理栄養士には、あなたのライフスタイルに合わせた無理のない食事の工夫を相談することができます。
一人での減量は手探りになりがちですが、医療機関というパートナーがサポートしてくれることで、現在の状態と目指すべき方向が明確になり、不安を和らげることができます。
基準を満たせば保険診療で治療できる
医療機関での肥満症治療は、一定の医学的基準(診断基準)を満たしている場合、健康保険が適用される保険診療として治療を受けることができます。ただし、下記の薬については保険適用での治療期間が定められています。保険適用期間を超える場合には自由診療となります。
2026年6月現在、肥満症の治療薬として、GLP-1受容体作動薬である「セマグルチド(製品名:ウゴービ)」や、GIPとGLP-1という2つのホルモンに働きかける「チルゼパチド(製品名:ゼップバウンド)」が保険適用で処方できます。これらのお薬は、脳の食欲中枢に働きかけて空腹感を和らげ、少ない食事量でも満足感を得やすくする効果があります。
保険適用でこれらの薬物治療を受けるためには、以下の3つの基準全てを満たす必要があります。
- 高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかの診断を受けている
- 食事療法や運動療法を適切に行っても、十分な効果が得られない
- 以下のいずれかに当てはまる
- BMIが35以上である(高度肥満症)
- BMIが27以上であり、肥満に関連する健康障害を2つ以上合併している
※実際の処方可否は、診察や検査結果、これまでの治療経過、合併症の状態、医療機関の体制などを踏まえて、医師が総合的に判断します
このように、一定の基準や合併症を抱えている患者さんに対しては、医学的に認められた治療選択肢が用意されています。一人で悩んでしまう前に、お近くの専門医療機関へ相談し、ご自身に適した治療法を医師と一緒に検討してみるのも選択肢のひとつです。
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まとめ
医師から「痩せなさい」と告げられた瞬間は、戸惑いや不安を感じたかもしれません。しかし、その言葉はご自身の生活を見直し、より健康で軽やかな毎日を取り戻すための転機になる可能性があります。
最初から完璧な食事制限やハードな運動を目指す必要はありません。まずは、今日この瞬間から始められる「最初のステップ」をひとつだけ選んで実践してみませんか。
この小さな選択を「できる日も、できない日もあるけれど、意識して過ごすことができた」という事実こそが、あなたの体をより良い方向へ変えていく確かな第一歩となるのではないでしょうか。
参考資料
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」「身体活動とエネルギー代謝」「標準的な運動プログラム」
- 厚生労働省 「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」「日本人の食事摂取基準(2025年版)」「糖尿病になる前にいつまでも健康に過ごすために今日からスタート」
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA):「ウゴービ皮下注 添付文書」「ゼップバウンド皮下注アテオス 添付文書」
- 一般社団法人 日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」
- 今井佐恵子、梶山静夫、「食べ方と食べる時間が血糖変動に影響を与える 夕食は2回に分けて食べると糖尿病やメタボリックシンドロームの発症予防が期待できる」、化学と生物 – 日本農芸化学会 –
- Tchernof A, et al., Pathophysiology of human visceral obesity: an update., Physiol Rev.
- Reyes C, et al., Association Between Overweight and Obesity and Risk of Clinically Diagnosed Knee, Hip, and Hand Osteoarthritis: A Population-Based Cohort Study., Arthritis Rheumatol.
- Muramoto A, et al., Three percent weight reduction is the minimum requirement to improve health hazards in obese and overweight people in Japan., Obes Res Clin Pract.
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監修
崔 静姫 先生