ある日の外来で、70歳代の糖尿病で通院している人が、「私、ずっと前から健診で脂肪肝と言われている。アルコール全く飲まないのに、なんで脂肪肝になったのかしら」とつぶやいているのを耳にしました。本人としては不本意ということだと思いますが、医師の間では知られていることながら、患者さんの間では、アルコールに関連がない脂肪肝もあり、アルコールを飲んでいる場合と同様、またはそれ以上に恐ろしい病気であることが、まだあまり知られていないと思われます。それが現在、代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)と呼ばれているものです。
内臓脂肪を理解する、また内臓脂肪とインスリン抵抗性
以前に、メタボリックシンドロームがやかましく取り上げられ、その時に内臓脂肪という言葉が取り上げられました。これと脂肪肝を混同する誤解がよくあるのですが、内臓脂肪というのは、腹部の内臓と内臓の間に蓄積した脂肪(下図)、脂肪肝は、肝臓の細胞の中に脂肪が蓄積している状態です。摂取カロリーが多く、それを消費していない状態が続くと内臓脂肪として蓄積すると考えていいと思いますが、現代の特に日本人は、消費カロリーはそれほど多くなく、また基礎代謝量が中年以降で低下すれば、ますますエネルギーが蓄積しやすくなります。

内臓脂肪が蓄積していると、そこから脂肪が分解されたときにできる遊離脂肪酸、またサイトカインという物質の影響で、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなります。これがインスリン抵抗性で、これがあると遊離脂肪酸がたくさん肝臓に流れ、それが脂肪の蓄積につながる、脂肪肝になるというわけです。これがMASLDが起こる原因ですが、MASLDに関しては、他さまざまな原因が考えられています。
肝がんとの関連
インスリン抵抗性のある患者さんで、小さい炎症が慢性的に起こっていること、また脂肪酸が多く肝臓に入ると、これが代謝されたときに活性酸素が発生することから、肝の繊維化が起こります。肝臓の炎症が起こり、肝臓の繊維化がみられると代謝異常関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction associated steatohepatitis:MASH)と呼ばれており、またDNAの障害による肝がんの発生が起こることもあります。このことは、アルコールが原因になっている場合でもほとんど同じなのですが、アルコールを飲んでいないから大丈夫ということはないことを理解していただく必要があります。
画像検査について
冒頭の患者さんに、「じゃあ、脂肪肝がどの程度かエコーで調べてみましょう」と言ったところ、「3年前から言われているのですが、血液検査で経過がわからないのですか」と問われました。以前から脂肪肝を言われていた人でも、血液検査が大丈夫であれば心配ない、と思っている方が結構おられます。しかし脂肪肝の悪化、改善を見るためにも、また肝がんの発生の有無をチェックするためにも、画像検査は重要であり、特に脂肪肝の変化を見るために超音波検査は重要であると考えます。また脂肪の状態によりエコーではわかりにくいとの結果であった人はもちろん、そうでなかった人も定期的なCT検査が可能ならしておくべきで、主治医の先生と話し合いながら、半年から1年に1回は行う必要があるかと考えます。血液検査は万能ではなく、肝臓の状態を知るには、ぜひ画像の経過観察をしておくべきと理解していただければと思います。
最後に
現在MASLD、MASHに関しては、SGLT-2阻害薬、GLP-1受容体作動薬などのさまざまな治療が行われています。肝がんは避けられないのではなくて、発見後画像での経過観察により、悪化兆候を早期で発見すること、進行を予防することが重要であると考えます。
プロフィール
和田 昌幸 先生
1999年島根医科大学卒業、島根医科大学附属病院、公立雲南総合病院、町立奥出雲病院勤務を経て、2022年より現職、日本内科学会認定総合内科専門医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医、指導医、日本病態栄養学会認定病態栄養専門医、指導医、日本栄養治療学会認定医。