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BMIが当てにならない理由とは?最新医学が示す肥満判定の新常識

健康診断の結果が届き、真っ先に「BMI」の欄をチェックする方もいらっしゃるでしょう。身長と体重から算出されるこの指標は、長らく肥満判定の黄金律として君臨してきました。しかし今、このBMIの信頼性が根本から揺らいでいます。

なぜ、これまで絶対視されてきたBMIが「当てにならない」とされるのか。国内の最新医学エビデンスに基づき、私たちが本当に見るべき健康の正体を深掘りします。

1. BMIの起源:200年前の「統計学」という落とし穴

BMI(Body Mass Index:体格指数)の計算式は、驚くほど単純です。

BMI = 体重 (kg) ÷ { 身長 (m) × 身長 (m) }

この指標を考案したのは、19世紀のベルギーの数学者・統計学者であるアドルフ・ケトレーです。ここで重要なのは、彼は医師ではなく統計学者であったという点です。

200年以上前の数式が、現代においても健康の絶対基準として使われ続けていること自体が、医学的・科学的な議論の対象となっています。BMIには、現代人が最も留意すべき「筋肉量」や「脂肪の質(蓄積部位)」という概念が完全に欠落しているからです。

▶BMI計算ツール

2. なぜBMIだけでは健康を評価できないのか

最新の医学研究において、BMIが個人の指標として不十分ではないかと議論される理由は、主に以下の4点に集約されます。

① 筋肉と脂肪の「密度」を区別できない

週に数回ジムに通い、筋肉質で引き締まった体型を持つアスリートであっても、筋肉の重さゆえにBMIでは「過体重」や「肥満」と判定されることが多々あります。逆に、運動不足で筋肉が極端に少なく、体脂肪が多い人(サルコペニア肥満)が、体重が軽いために「正常」と判定されてしまう、いわゆる「隠れ肥満」の問題も深刻です。

② 脂肪の「蓄積部位」を無視している

医学的に最も警戒すべきは、脂肪の総量ではなく「どこに蓄積しているか」です。BMIは全身の重量しか測定しませんが、健康リスクに直結するのは内臓脂肪です。脂肪細胞から分泌される生理活性物質を総称してアディポサイトカインといいますが、これには悪玉(TNF-α、PAI-1など)と善玉(レプチン、アディポネクチンなど)がある。内臓脂肪の蓄積はアディポサイトカインの分泌異常を生じます。これが動脈硬化の促進やインスリン抵抗性を悪化させます。

一方、お尻や太ももにつく皮下脂肪は、見た目への影響は大きいものの、代謝への悪影響は内臓脂肪ほどではありません。BMIが同じ「26」であっても、内臓脂肪型と皮下脂肪型では、糖尿病や心血管疾患の発症リスクは天と地ほどの差があります。

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③ 年齢による「理想値」のパラドックス(肥満のパラドックス)

国立がん研究センターのデータによると、死亡リスクとBMIの関連には年齢による顕著な差が見られます。

特に中高年から高齢期においては、BMI 22 前後の「標準」よりも、BMI 25 前後の「やや過体重」とされる層の方が死亡リスクが低いという結果が示されています。これは、高齢期におけるやせ過ぎが「フレイル(虚弱)」や「低栄養」を招き、感染症や骨折のリスクを高めるためです。一律に「22」という数字をゴールにすることは、特にシニア層にとっては健康を損なうリスクになり得ます。

④ 日本人の代謝特性

BMIの基準は主に欧米人を対象とした研究から発展しました。しかし、日本人を含むアジア人は、欧米人と比較して「低いBMIでも内臓脂肪が溜まりやすく、2型糖尿病を発症しやすい」という遺伝的特性を持っています。欧米基準の「肥満(BMI 30以上)」を日本人に当てはめると、多くの代謝異常を見逃してしまう危険があるのです。

3. 日本肥満学会が鳴らす警鐘:不適切な「薬物療法」

昨今、日本国内で社会問題となっているのが、GLP-1受容体作動薬などの「肥満症治療薬」の不適切な利用です。これに対し、日本肥満学会は「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメントについて(日本肥満学会)」を発表し、強い警鐘を鳴らしています。ここでも、健康指標としてのBMIの誤解が深刻なリスクを招いています。

「肥満」と「肥満症」は異なる

日本肥満学会の提言において、最も強調されているのは「肥満」と「肥満症」の厳格な区別です。

「肥満とは脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した結果 BMI 25kg/m2 以上を示す状態である。肥満と肥満症は異なる概念であり、肥満は疾患ではない」

引用:「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメントについて(日本肥満学会)」より

本来、治療薬の対象となるのは後者の「肥満症」です。しかし現在、BMIが正常範囲内、あるいはわずかに高い程度の個人が、医学的な必要性がないにもかかわらず「美容・ダイエット目的」でこれらの薬剤を自由診療下で使用するケースが急増しているため、注意が必要です。

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4. BMI正常に潜む病:MASHとコレステロールの罠

BMIが正常範囲内(18.5 以上 25.0 未満)であっても安心できない代表例が、MASH(代謝異常関連脂肪肝炎。過去にはNASHと呼ばれていた病態を2023年に変更された。)です。

肝臓の悲鳴は見えない

MASHは、過度な飲酒習慣がないにもかかわらず肝臓に脂肪が蓄積し、炎症が起きる疾患です。日本人の場合、BMIが正常であっても内臓脂肪が多いタイプ)が多く、健診で「BMIは問題なし」とされながらも、エコー検査や血液検査(ALT数値など)で異常が見つかるケースが急増しています。

また、コレステロール値についても同様です。BMIが低いからといって悪玉(LDL)コレステロールが低いとは限りません。遺伝的要因や食習慣により、細身の人でも動脈硬化のリスクを抱えていることは珍しくないのです。

5. 私たちが本当に注視すべき「真の指標」

BMI以外で、私たちは何を基準に健康を管理すべきでしょうか。代替指標をご紹介します。

① 腹囲(ウエスト周囲径)

2005年日本内科学会、日本動脈硬化学会、日本肥満学会など8学会がメタボリックシンドロームの診断基準を発表しましたが、以後、重要視されているのが腹囲です。皮下脂肪より内臓脂肪量を反映させるとして健康診断でも腹囲の測定を行うようになりました。

男性:85 cm 以上
女性:90 cm 以上 

引用:一般社団法人 日本肥満学会 「肥満症診療ガイドライン2022」より

② 体組成(体脂肪率と骨格筋量)

体重という「量」ではなく、中身の「質」を確認しましょう。「体重が減っても体脂肪率が下がっていない」状態は、筋肉が落ちているサインです。これは将来的なリバウンドや、身体機能が低下するロコモティブシンドロームの予備軍であることを意味します。

③ 血液データ(HbA1c・ALT・脂質)

数字としての体格よりも、内臓の機能を示す血液データこそが真の「通信簿」です。

  • HbA1c: 過去1〜2ヶ月の血糖状態。
  • ALT (GPT): 肝臓の炎症状態(MASHの指標)。
  • 中性脂肪・コレステロール: 脂質代謝の状態。

6. 結論:数字の奴隷から、体の「オーナー」へ

BMIは、あくまで19世紀に作られた統計のための物差しに過ぎません。その数値が「22」でないからといって、あなたが不健康であるとは限らないのです。

これからの健康管理に必要なのは、「自分の体の組成(中身)」と「代謝の健やかさ」を正しく把握するリテラシーです。

  • 体重計の数字ではなく、ベルトの穴の位置を確認する。
  • 腹囲を測り、自分の内臓脂肪の状態を推測する。
  • 血液検査の結果から、自分の代謝(血糖・肝機能・脂質)がスムーズに回っているかを確認する。

BMIという単一の数字の呪縛から解き放たれ、多角的な視点で自分の体をマネジメントすること。それこそが、情報に振り回されない「本物の健康」を手に入れるための唯一の道です。

あなたの健康は、二次元の数式で測れるほど単純なものではありません。今日から、数字という結果を追うのではなく、自身の「体の質」を磨く習慣を始めてみませんか。

参考文献・参照サイト

  • 厚生労働省  e-ヘルスネット「BMI
  • 国立研究開発法人 国立がん研究センター「肥満指数(BMI)と死亡リスク」
  • 一般社団法人 日本肥満学会 「肥満症診療ガイドライン2022」
  • 一般社団法人日本糖尿病学会「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメントについて(日本肥満学会)」
  • 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準
  • 日本肝臓学会 奈良宣言特設サイト「一般の方向け
  • 統計局ホームページ 「ケトレーと身長の正規分布
  • 生活習慣病予防協会「NAFLD/NASHからMASLD/MASHに名称変更」
  • 日本内分泌学会「メタボリックシンドローム|一般の皆様へ|日本内分泌学会」
  • 日本薬学会「アディポカイン | 公益社団法人 日本薬学会」

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監修

東京慈恵会医科大学 病院救急部

中谷 宣章 先生

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