急激な減量
現在GLP-1受容体作動薬や、チルゼパチドなど薬剤による減量が多用されるようになり、肥満外科も徐々に普及しているので、肥満症に医学的な介入を行う症例が増えていますが、お手軽にやせられるという考えが広まってしまっているので、適応外の安易な薬剤の使用に注意が呼びかけられているとともに、治療の基本が何か、という点が忘れられていることが多くなっていると感じています。肥満症治療の基本は、もちろん食事療法、運動、つまり生活習慣の改善です。
5年くらい前の例ですが、30代の男性が健診で血糖の異常を指摘されたとのことで当院を受診されました。HbA1cは9.3%と高値で、身長173㎝で体重100.5㎏、BMIは33.6ありました。とりあえずは減量の必要があるかと考え、2000kcalの食事療法を開始しましたが、この方が自己流ダイエットをおこない、3か月程度で90㎏まで体重が減少、その月にはHbA1cは6.4%まで改善していました。もちろん、急激な血糖の改善は合併症の悪化を招くため、過激なダイエット、食事制限はしてはいけないことを繰り返してお話ししていました。
急激な体重減少の後の急激な体重増加
その後、仕事の多忙さが理由と言われましたが3か月程度通院が途絶え、通院再開とともに体重がリバウンドしていきました。その時100㎏を超えていましたが、以前に私が話をしたことを「食べないといけない」と誤解してとらえているのかと思い、詳しく話を聞いてみました。しかし、そうではなく、話を聞いてみて驚いたのは、過酷な生活習慣でした。ご本人がとある病院に健診に行って、健診担当医から聞いてきたこともあり、チルゼパチドの使用を希望されましたが、生活習慣を聞いていたので、「チルゼパチドだけでは改善しないと思うがやってみますか?」と、お話ししておきました。
とにかく出張が多く、朝7時に起きて摂取するのは糖質が中心、特に夜は1時、2時に丼もの、ラーメンなど多量の糖質を食べて、就寝するのが3時になることがあるとのことでした。ほとんど野菜は取っておらず、運動する時間なんかありませんとのこと。また、「睡眠時間4時間ですか?」と聞くと、その通りとのことでした。最初は、なんと過酷な労働なのだろう、とだけ思いましたが、最近になって再度話を聞いて、事実であれば勤務体制を考慮してもらうべく、企業の産業医に連絡するべきではないかと思い始めました。また現在、チルゼパチド5㎎まで増量しましたが、やはり効果はあまりなく、100㎏越えの体重は3か月で2㎏減にとどまっています。
規則正しい生活と食事療法は肥満症治療の基本
規則正しい生活と食事療法は肥満症治療の基本です。特にオレキシン受容体とインスリン抵抗性の関連が盛んに報告されるようになって、最近でも報告があった通り(JCEM 108 e574-e582, 2023など)、睡眠不足はインスリン抵抗性につながることが理解され始めています。しかし、それを持ち出すまでもなく、上記の症例の患者さんは精神衛生上も生活パターンを改善、また睡眠を十分とるようにご本人の指導を続けなければなりません。さらに、糖質を過剰にとると血糖変動とともに内臓脂肪増加につながることも明らかであり、食事内容に関しても、夜遅くなっても野菜から先に食べることを守るべきと説明していました。しかし、睡眠時間に関してはいまだに改善されず、まずは食事を必ず3回食べること、また食事の時間を大まかでもいいから決めること、コンビニの野菜を取ることを始めたとのことです。
肥満症は肥満が疾病の原因になっている状態
肥満症は肥満が疾病の原因になっている状態です。「あなたはその状態であるということをわかってください」と説明したところ、ようやく減量の重要性についてわかってもらえた様子でした。簡単に減量してそれを維持できる状態にはならないと説明していましたが、チルゼパチド等はすぐに効果が出るために、それを売りにした自由診療での処方が横行しているのはご存じの通りです。医師の側も、まずは生活習慣を聴取して、これを是正するアドバイスを行う必要があり、その中で、睡眠時間が適正かどうか定期的に確認することも忘れてはいけないのではないのでしょうか。自分が、患者さんとの対話の中で、このことを忘れていることを痛感させられた例であり、話を聞くこと、患者さんと二人三脚で治療をすることが必要であることを再認識した症例です。
プロフィール
和田 昌幸 先生
1999年島根医科大学卒業、島根医科大学附属病院、公立雲南総合病院、町立奥出雲病院勤務を経て、2022年より現職、日本内科学会認定総合内科専門医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医、指導医、日本病態栄養学会認定病態栄養専門医、指導医、日本栄養治療学会認定医。