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閉経後の体重増加と乳がんリスクの関係:乳腺外科の視点から

閉経に伴うエストロゲンの低下と体重増加のメカニズム

「食事の量は変わってないのに、最近太ってきた」、なんて経験ありませんか。閉経前の女性ホルモン(エストロゲン)は主に卵巣で作られますが、卵巣機能が低下し閉経するとエストロゲンは低下します。エストロゲンが減少すると基礎代謝が低下するため、従来通りの食事をするとカロリー消費量が減り、体重が増えやすくなるのです。また、エストロゲンが低下すると皮下脂肪よりも内臓脂肪がつきやすくなります。

閉経後の脂肪組織が女性ホルモンを産生する仕組み

閉経後のエストロゲンはどこで作られるのでしょう。閉経後は主に脂肪組織などから生成されるアロマターゼという酵素の働きで、副腎皮質で作られる男性ホルモン(アンドロゲン)がエストロゲンに変換されます。すなわち、閉経前と閉経後ではエストロゲンの産生部位が大きく変わります。

脂肪組織の増加が閉経後の乳がんリスクを高める理由

乳がんの発症、増殖にエストロゲンが関与していることはよく知られていますが、肥満により脂肪組織内でのアロマターゼが亢進し、乳腺組織内のエストロゲン濃度が上昇します。また、肥満により細胞のインスリン抵抗性が高まり、慢性的な高インスリン血症を引き起こします。インスリンはよく知られている血糖値を下げる作用だけでなく、細胞の増殖因子として、各種がんの発症リスクを高めます。さらに、肥満により低レベルの炎症反応が長期間持続すると慢性炎症状態となります。慢性炎症により多彩な生理作用を有するサイトカイン(IL-6やTNF-αなど)が周囲の細胞の異常増殖を促進し、発がんしやすくなります。閉経後の肥満は乳腺組織内のエストロゲン濃度上昇、インスリン抵抗性上昇、慢性炎症を引き起こすのです。

閉経前と閉経後で異なる「肥満が乳腺に与える影響」

閉経前と閉経後ではエストロゲンの生産部位が異なり、閉経前では卵巣からのエストロゲン分泌が盛んであるため、脂肪組織からの影響は少なく、肥満が必ずしも乳がん発症リスクを増加させるわけではありません。

それに比べ、閉経後の肥満は乳がんの発症リスクを明らかに高めます。痩せた女性に比べ、肥満女性(BMI25以上)の乳がんリスクは1.2~1.5倍とされています。閉経後はエストロゲンの生産はほぼ全て脂肪組織からとなり、体脂肪が多いほどホルモン感受性の高い乳がんの発症リスクが高くなるのです。

閉経後の乳がんリスクを低減するために:医師からのアドバイス

肥満は乳がんだけでなく、さまざまながんの発症リスクを高めます。国際がん研究機関(IARC)の研究発表では、腹囲が11cm増加するごとに肥満関連のがんリスクが13%上昇するとされています。肥満関連のがんとして10種類(大腸がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆のうがん、膵臓がん、子宮がん、卵巣がん、腎がん、乳がん)が挙げられます。閉経して卵巣からのエストロゲン産生が止まり、太りやすくなります。太ることで体脂肪が増え、脂肪由来のエストロゲン産生が増えます。この「負の連鎖」を断ち切ることが重要なのです。

反対に体重のわずか5%の減量で乳がん発症リスクが12%低下することが知られています。どうしたら筋肉量を維持して脂肪を落とせるのでしょうか。そのためには食事、運動、生活習慣が大切です。極端な食事制限ではなく、高タンパクで適度な炭水化物を摂取しましょう。筋肉量を減らさないためには、強度を落とさない筋トレを継続して、ウォーキングなどの有酸素運動を組み合わせましょう。十分な睡眠と休養も筋肉の回復のために必要です。

平均寿命が延長し、閉経後も人生は続いていきます。筋肉量を維持しながら体脂肪を落として、元気に動き回れることは、乳がんリスクだけでなく、さまざまながんの発症リスクを低減し、豊かな老後に確実につながります。

プロフィール

嶋田 昌彦 先生
けいゆう病院 ブレストセンター長

嶋田 昌彦 先生

けいゆう病院 ブレストセンター長、参事。1979年金沢大学医学部卒業後、慶應義塾大学一般・消化器外科学教室入局、国立がんセンター研究所内分泌部を経て、1986年よりけいゆう病院、2020年より現職。日本乳癌学会専門医・指導医、日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会指導医、産業医、医学博士。

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