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健康診断の数値をどう見るべきか

基準値内=安心ではない理由

健康診断の結果一覧表を見るとき、緊張される方は大変多いです。まるで学力試験の点数発表のようにとらえていらっしゃるのではないかと思います。基準値内に入っているかどうかで一喜一憂される方が多く見られます。

基準値とは、以前には「正常範囲」と書かれていたもので、血液検査結果一覧の脇に書かれている数字のことです。健康診断の基準値(または基準範囲)は、病院で渡される検査結果一覧表に書かれている基準値よりも、やや厳しい基準となっていますので、健康診断で基準値内であれば大丈夫だ、と思われるかもしれません。

しかし、本当に大丈夫なのでしょうか?また、来年まで放っておいて良いものでしょうか?実のところ、これはケースバイケースなのです。大丈夫な場合もあれば、そうでない場合もあります。数字だけで機械的には判断できない、ということです。

胃や腸などのおなかを中心とした内臓の周囲に蓄積した脂肪を「内臓脂肪」と呼びます。食事で摂取した栄養素のうち、活動エネルギーとして使用されなかったものは「脂肪」として蓄えられます。内臓脂肪は、皮下脂肪と違い、落としやすい一方で蓄積されやすく、短期間で内蔵脂肪型肥満となる可能性があります。内臓脂肪は血液の中から出て内臓の周囲に蓄積しているため、血液検査の数値に出にくいことがあるのです。血液検査で脂質のデータが基準内であっても、内臓脂肪の量は直接にはわからないのです。

「何も変わった症状はないし、こんなに元気だから私は健康です」と仰る方は多いです。「心筋梗塞?何も症状がないのに、そんなはずはない」と仰る方もいます。人間の症状というのは、感覚の強さにも個人差があり、感覚の表現の仕方にも個人差があることから、病気の診断のためには参考にはなるものの、あまりあてにならないというのが実情です。

「検査値に異常がない=安心」ではないので、自己判断で放置することなく、将来の心血管病リスクを早めに知ることが重要なのです。

健診結果の数値を「全体のバランス」で見ることの重要性

健診結果の表において、基準値をわずかに外れる「軽度の異常」が複数見られることがあります。その一つひとつが軽度のずれであると、「症状もないし、どうせ健康診断では大げさに言っているだけだからいいや」と思ってしまうかもしれません。しかし、この軽度異常項目の組み合わせによっては、思いがけず大きな意味を持っていることがあるのです。

例えば、腹囲がやや大きめで、脂質の項目がやや高めである場合はどうでしょうか。「前回とあまり変わらないから、何ともないや」と自己判断で放置してしまっていませんか?それぞれ一方だけが基準値を外れている場合で、他のカテゴリーに異常がない場合は、経過観察でもよいかもしれません。しかし、両方の項目が基準値を外れている場合は内臓脂肪が蓄積している可能性が高いのです。しかも前年から続いているとなると、近い将来心血管病を発症するリスクがあるかもしれません。

もうひとつの例として、肝機能異常と体重増加の組み合わせを考えてみましょう。ごく軽度の肝機能異常があり、数年前に腹部エコーで異常なしと言われた場合であっても、徐々に体重が増えてBMIが25を超えた場合は、脂肪肝に至っている可能性があります。逆に、BMIが25以上でほぼ変わりなくても、そこへ軽度の肝障害をきたした場合は、脂肪肝による肝障害かもしれません。

単一項目の数値だけでは心配ないように思えても、他の項目の数値との組み合わせによっては、大きな意味を持っていることがあります。健康診断では、単一の数値だけでなく、複数項目の関連や変化を総合的に見て判断することが大事なのです。

前年との変化を見るべき理由

健康診断を毎年受けるのは面倒だから、今年はちょっとお休みしよう、と思われる方がいらっしゃいます。自覚症状がない方や、前年に精密検査を受けて「大丈夫と言われた」と思っていらっしゃる方には、特にその傾向があります。しかし記述のように、自覚症状はあてになりません。前年に「少し様子を見ましょう」と言われても、その「少し」は「何年も放置してよい」という意味ではないのです。健康診断は毎年受けてその変化を見ることに意義があるのです。わずかな変化であっても、総合的にみると心血管病リスクの発症を早期に発見できる可能性があります。

健康診断の検査データは、直近のもの同士を比較することが重要ですが、腎機能・肝機能・脂質などのデータは数年単位の推移で見ることが重要です。直近ではなく、数年前に遡って推移を見ると、意外に大きく悪化していることに気づいたり、ある時点から急に悪化していることに気づいたりします。そういう場合は、早めに内科を受診しましょう。健康診断の結果を持参することを忘れずに。

グレーゾーン(境界域)が最も危険なケース

糖尿病の診断基準には届かないけれど、空腹時血糖HbA1cの数値が高めの状態を「境界型糖尿病」と呼ぶことがあります。いわゆる、「糖尿病の予備軍」です。「まだ糖尿病じゃないから大丈夫ですよね?」と質問される患者さんが多いです。ところが、大丈夫ということは決して無いのです。HbA1cがそれほど高くなくても、糖尿病性網膜症という眼の病気が進行していることがあります。これは失明につながりかねませんので要注意です。必ず眼科受診をされるようお勧めしています。

糖尿病や脂質異常症(高脂血症)などの代謝異常は、境界域でも進行していることがあります。しかも、自覚症状がないまま悪化しやすいので要注意です。心血管病などの合併症を発症してからでは治療が困難となることが多いので、病気になる前の介入が重要です。

医師が実際に受診を勧める数値パターン

健康診断とは、健康であるかまたは定常状態にあると仮定された患者さんについて、基本的なスクリーニング検査(ざっと広く浅く見て異常を拾い上げる検査)を行うことにより、病気を早期発見することを目的としています。したがって、健康診断だけで病名を診断することができるとは限りませんが、病院受診につなげることにより、病気を早期発見できる可能性があります。特に以下のような場合は自己判断で放置せず、病院を受診されることをお勧めします。

・軽度異常が複数ある場合

例えば、軽度の高血圧と軽度の腎機能障害がある場合は、腎硬化症の始まりかもしれません。軽度のHbA1c上昇と尿タンパク陽性は、糖尿病性腎症の始まりかもしれません。いずれも特効薬がないので、早期発見をして進行予防の対策を立てる必要があります。

・肝機能異常+肥満がある場合

既に書いた通り、内臓脂肪蓄積や脂肪肝などに至っている可能性があります。薬で簡単に治療できるものではなく、内臓脂肪はなかなか減りませんので、これも早期発見が重要です。

・前年より複数項目が悪化している場合

複数項目に軽度異常を指摘されても、一つひとつは基準値を大きく外れていないから大丈夫だと思ってしまうかもしれません。また、「悪化している項目が増えていて怖くなって、でもそんなに悪くなさそうだから様子見しよう」と仰る方もいます。このパターンが最も危険かもしれません。「怖い」と思うのは「病気になったかも知れない」と直感するからで、そこから現実逃避するのではなく、すぐに病院を受診しましょう。項目の組み合わせによっては、何らかの病気を発症している可能性があるからです。

最後に

健康診断の結果が思わしくなかったからと言って、自分を責める必要はありません。「今の段階で気づくことが大切」ということです。

プロフィール

原田内科クリニック 院長、浅草寺病院 副院長

原田 裕子 先生

原田内科クリニック院長。1994年に慶応義塾大学医学部を卒業後、慶應義塾大学医学部内科学教室に入局。渡米し出産・育児の傍ら、カリフォルニア大学サンディエゴ校附属病院循環器内科で臨床見学研修。帰国後、川崎市立井田病院内科で再研修修了。川崎市立井田病院循環器内科医長、新百合ヶ丘総合病院総合内科部長、大和徳洲会病院総合内科部長、川崎市立井田病院循環器内科担当部長などを経て、2023年より現職。2026年4月より、浅草寺病院副院長に就任。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医。

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