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小児肥満症は「成長とともに治る」のか?

小児肥満は「経過観察」でよいのか

子どもの肥満は「食欲旺盛な元気な子」、小児肥満症は「成長すれば自然に治る」という見方があるようです。それで済ませていた時代もありましたね。研究によって幅はありますが、小児期に肥満だった子どもの40~70%程度が成人肥満へ移行すると報告されています。今回は、小児肥満症は「経過観察で良いのか」を、長らく小児肥満症外来を続けている小児科医の視点から考えてみます。

小児肥満の判定には、年齢・性別・身長に対する標準体重からのずれを示す「肥満度」が用いられます。肥満度20%以上が肥満と判定され、学校検診でもこの指標が使われています。

こうした評価で肥満と判定される子どもの中には、将来の生活習慣病リスクが高い「内臓脂肪型肥満」が含まれます。内臓脂肪は腹腔内に蓄積する脂肪で、糖尿病や心血管疾患と深く関係しています。

小児期から始まるインスリン抵抗性

小児肥満では、既に体の中で代謝の変化が始まっていることがあります。その代表がインスリン抵抗性です。これは血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが弱くなった状態で、将来の2型糖尿病のリスクと関係しています。

小児肥満症外来を受診した中等症以上の肥満の子どもでは、約7割にインスリン抵抗性がみられ、脂質異常症や脂肪肝を伴う例も少なくありません(筆者の経験による)。

小児肥満は、いわゆる「メタボリック・ドミノ」の最初の一枚と考えることができます。最初のドミノが倒れると、インスリン抵抗性、脂質異常症、高血圧などが次々と連鎖し、最終的には糖尿病や心血管疾患へと進んでいく可能性があります。

既に起きている血圧・脂質異常

肥満の子どもでは、高血圧や脂質異常など、動脈硬化の危険因子が既に認められることがあります。

動脈硬化は中高年の病気と思われがちですが、実際には若い時期から始まります。朝鮮戦争で戦死した平均22歳の米兵の冠動脈を調べた研究では、約8割に動脈硬化の初期病変が認められたと報告されています。彼らは外傷で亡くなった若者ですが、すでに動脈硬化が存在していたのです。

さらに、小児肥満約500人を40年間追跡したスウェーデンの研究では、小児肥満だった人は一般集団と比べて成人期早期の死亡リスクが約3倍高いことが報告されています。

また、若年者の動脈硬化を大規模に調べたPDAY研究でも、肥満や脂質異常などの危険因子が、すでに若年期の動脈硬化の程度と関連していることが示されています。これらの研究は、生活習慣病のリスクが成人になってから突然始まるのではなく、子どもの頃から積み重なっていくことを示しています。

どこからが「病気」なのか

子どもの肥満の多くは、食事や生活習慣などの影響で生じる単純性肥満です。これに対して、内分泌疾患や遺伝性疾患などが原因となる肥満は症候性肥満と呼ばれます。

社会的に問題となっているのは、単純性肥満のうち、脂質異常症、脂肪肝、高血圧、インスリン抵抗性、内臓脂肪型肥満などの健康障害を伴う「小児肥満症」です。これらは医学的に治療が必要な疾患として考えられています。

小児期に介入する意味

治療が必要な小児肥満症の中には、2型糖尿病や脂肪肝など、放置すると将来の健康に大きく影響する病気も含まれます。

小児期に介入する意味は大きく二つあります。

一つは、生活習慣を整えることが生涯の健康を守ることにつながるという点です。食事、運動、睡眠などの生活習慣は子どもの頃に形成される部分が大きく、この時期に身についた習慣は大人になってからも続きやすいとされています。

もう一つは、脂肪細胞の問題です。脂肪組織は脂肪細胞の集合ですが、その数は主に成長期に増えると考えられています。小児期に肥満になると脂肪細胞の数が増え、成人後も肥満が続きやすくなる可能性が指摘されています。

子どもの肥満は「そのうち治る」と見過ごされがちな問題ですが、適切な時期に向き合えば、将来の健康を大きく守ることができます。

最後に

原稿を書いている現在は卒業シーズンです。小児肥満症外来では、小学校や中学校の卒業に合わせて外来を卒業する子どもも多く、生活習慣を変える、太りやすい体質を乗り越えるという、おとなでも挫けそうな壮大なテーマをやり抜いた子どもたちは、まさしく勇者です。

新たな旅へと向かう小さな勇者たちが、肥満を克服した成功を糧に、どんな未来を作り上げるのか、楽しみです。

医師プロフィール

佐世保中央病院 小児科

山田 克彦 先生

小児科医。
佐世保中央病院小児科(前診療部長)。小児肥満外来に長年携わり、子どもの生活習慣病予防の診療を行っている。
小児科専門医・指導医、循環器専門医。日本動機づけ面接学会(JAMI)1級。
外来で子どもたちと向き合いながら、小児肥満や子どもの健康について一般向けの情報発信を行っている。
YouTubeチャンネル「ずんだもんと学ぶ子どもの肥満の治し方」でも解説を行っている。

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