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 医師が解説する「悪い肥満と良い肥満」:【後編】良い肥満 

「痩せれば健康」は本当?:常識が変わる 

悪い肥満があるなら、「良い肥満」もあるのか

「腸のバリアが壊れ、慢性炎症が全身に広がる」。それが前編で解説した「悪い肥満」の正体でした(前編はこちら → 医師が解説する「悪い肥満と良い肥満」:【前編】悪い肥満)。

問題なのは体重そのものではなく、炎症を抱えた「質の悪い肥満」であるという視点です。

では、ここで一つの疑問が生まれます。

体重が多いことは、どの年代でも同じように「悪」なのでしょうか。

若い世代にとってはリスクとなる体重が、高齢期においても同じ意味を持つのでしょうか。

実は、この問いに対する答えは、単純ではありません。

高齢期に起きる「肥満の逆説」

これまで、BMI(体格指数)が高いことは万病の元とされてきました。しかし、最新の老年医学のエビデンスは驚くべき事実を示しています。 

高齢期を対象とした観察研究において、BMI 25〜29.9(過体重)の範囲にある人は、標準体重や低体重の人と比べて死亡率が低いことが報告されています1,2,3)。 

これを医学界では「オベシティ・パラドックス(肥満の逆説)」と呼びます。若年期には心血管疾患のリスクだった「体重」が、高齢期には一転して生命を守る「リザーブ(貯蓄)」へと役割を変えるのです。 

BMI 27前後が「最も長生き」という事実 

多くの高齢者が、若年層と同じ「BMI 18.5〜25」を目標にダイエットをしています。しかし、高齢者では最も死亡率が低いBMIは27前後であると指摘されています4)。 

なぜ「ふっくら」している方が長生きなのでしょうか。 高齢者にとっての最大の脅威は、心筋梗塞よりもむしろ「フレイル(虚弱)」や「転倒・骨折」「肺炎」です。 

  • 物理的クッション: 適度な脂肪は転倒時の骨折を防ぐ衝撃吸収材になります。 
  • エネルギーの貯蔵庫: 急な感染症や手術の際、体重が少ない人はすぐに体力が枯渇しますが、適度な蓄えがある人は病魔に耐え抜く力(回復力)を持っています。 
  • 心不全への耐性: 在宅医療で多い心不全患者さんにおいても、BMIが高い方が予後良好であるというデータがあります5)。 

「良い肥満」と「悪い肥満」を分けるもの:筋肉と炎症 

ここで重要なのは「太っていれば何でもいい」わけではないという点です。「良い肥満」と「悪い肥満」の境界線は、「炎症」と「筋肉(体組成)」にあります。 

「悪い肥満」=サルコペニア肥満 

最悪のシナリオは、体重はあるが中身が「脂肪ばかり」で「筋肉がスカスカ」な状態です。これをサルコペニア肥満と呼びます。内臓脂肪から分泌される「アディポサイトカイン」は全身に慢性炎症を引き起こし、代謝障害を招きます6)。前編で解説した「悪い肥満」の正体です。 

「良い肥満」=代謝的に健康な肥満 

一方で、筋肉量(骨格筋)が維持され、体内の慢性炎症が抑えられている状態は、たとえBMIが高くても「良い肥満」です。重要なのは「BMIという数字」ではなく「体組成(筋肉と脂肪の比率)」と「代謝の質」です。筋肉は単なる移動手段ではなく、最大の代謝器官であり、免疫系を支える拠点なのです。 

体重管理は「減らす」から「守る」へ 

超高齢社会における体重管理のパラダイムシフトが必要です。 

「筋肉という名の貯金」を崩さない

 無理な減量は脂肪よりも先に筋肉を奪います。筋肉を失うことは健康の資本を失うことと同義です。 

フレイル(虚弱)の芽を摘む 

意図しない体重減少(半年で2〜3kg減など)は、フレイルの主要因子であり、要介護状態へのサインです。 

今の体重は「あなたを守って」いますか? 

肥満症管理のゴールは、一律の減量ではありません。 

若年期の「将来の病気を防ぐための引き算の管理」から、高齢期の「今ある生活機能と生命力を維持するための足し算の管理」へ。 

BMIが少々高くても、しっかり歩けて、炎症が少なく、活気があるならば、それはあなたにとっての「最適な守備力(良い肥満)」です。数字に一喜一憂せず、自身の「動ける体」と「食べる力」を守ることを最優先にしてください。

参考文献 

  1. Body-mass index and all-cause mortality: individual-participant-data meta-analysis of 239 prospective studies in four continents.The Lancet, 2016; 388(10046): 776-786. 
  2. Body Mass Index and All-Cause Mortality of Elderly Japanese People: The Ohsaki Cohort Study. Journal of Epidemiology, 2012; 22(1): 71-78. 
  3. Association of All-Cause Mortality With Overweight and Obesity Using Standard Body Mass Index Categories: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA (Journal of the American Medical Association), 2013; 309(1): 71-82. 
  4. Body mass index and all-cause mortality in older adults: a meta-analysis The American Journal of Clinical Nutrition, 2014; 99(4): 875-890. 
  5. Body mass index and mortality in heart failure: a meta-analysis American Heart Journal, 2008; 156(1): 13-22. 
  6. Inflammation and metabolic disorders Nature, 2006; 444(7121): 860-867.

医師プロフィール

内田 賢一 先生
さくら在宅クリニック 院長

内田 賢一 先生

さくら在宅クリニック院長。2002年に福井医科大学(現・福井大学医学部)を卒業後、福井赤十字病院、東京警察病院、中東遠総合医療センター脳神経外科部長、千葉徳洲会病院脳神経外科部長等を経て、2022年より現職。脳神経外科専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳卒中の外科学会技術認定医、日本神経内視鏡学会技術認定医、日本脊髄外科学会技術認定医、臨床研修指導医。

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