若年~中年の肥満患者で増えている心血管イベント
肥満は、心筋梗塞・脳卒中・心不全などの心血管イベントの重要なリスク因子の一つです。
特に、若い頃から中年期にかけて肥満や体重増加が続くと、長い時間をかけて血管や心臓への負担が少しずつ蓄積し、将来的な心血管イベントの発症リスクが高まることが、複数の研究で示されています。
「まだ若いから」「今は特に症状がないから」と感じていても、体の中では気づかないうちに変化が進んでいることがあります。
自覚症状がないまま進行する動脈硬化
動脈硬化とは、血管(動脈)の壁にコレステロールなどが溜まり(溜まったものはプラークと言います)、血管が硬くなったり狭くなったりして、血液の流れが悪くなる状態のことです。
高血圧症、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病に加え、喫煙や肥満症は、動脈硬化を進行させる大きな要因となります。
これらの病気は自覚症状がほとんどないまま進行するため、普段通り生活しているうちに、気づかないまま全身の血管にダメージが蓄積していきます。その結果、心臓、脳、腎臓など、さまざまな臓器の機能低下をきたします。
突然の心筋梗塞・心不全で運ばれてくるケース
血管の内側に溜まったプラークによって血流が悪くなると、動いたときの息切れ・胸の違和感や胸痛などを自覚したり、無症状でも健康診断の心電図で異常を指摘されることがあります。いわゆる狭心症の状態です。しかし中には、ほとんど前触れが無いまま突然血管が詰まり、心筋梗塞や突然死に至ることもあります。
また、生活習慣病や喫煙、肥満症は心不全を引き起こす原因にもなります。特に若年~中年の方は、筋力や肺の機能が保たれていることが多く、息切れを感じにくい傾向があります。体重増加やむくみがあっても、「食事や生活のせいかな?」と見過ごしてしまい、心不全の症状として気づかれにくいことも少なくありません。
心臓が耐えられる負荷の限界を超えたときに、突然強い息苦しさが出現し、救急搬送・緊急入院となることもあります。若年~中年であっても、知らないうちに心機能が大きく低下している場合があるのです。
「痩せていれば防げたかもしれない」と思う瞬間
治療の現場では、「もし、もう少し早く体重管理ができていたら」「この心臓への負担は減らせたかもしれない」と感じる場面に出会うことがあります。全ての病気が体重だけで決まるわけではありません。しかし、肥満の改善が心血管イベントの予防につながった可能性があると考えられるケースがあるのも事実です。
早い段階での体重管理の重要性
自覚症状がなくても、生活習慣病を放置しないこと、体重管理、禁煙、適度な運動、食べすぎや飲みすぎを控えることは、動脈硬化を進めないために非常に大切です。
狭心症・心筋梗塞・心不全などの心血管疾患を発症すると、長期間にわたる服薬や通院が必要になります。併存疾患が増えたり病状が進行したりするほど、薬の種類や量も増えていき、症状によって日常生活や仕事に制限が出ることもあります。
若年~中年の方は仕事をされている方も多いため、通院日の調整が難しい、飲み会や出張などで薬を飲み忘れてしまう、といった声もよく耳にします。通院費や薬代などの経済的負担も考えると、新たな病気を発症する前に生活習慣を見直して病気を増やさない・悪くしないことが非常に重要です。
体重や血圧などを数値として「見える化」することで、健康管理を意識しやすくなります。最近は自宅での体重測定や血圧測定の結果を記録できるアプリも多く、無理のない範囲で取り入れるのもおすすめです。
読者へのメッセージ
最近、洋服がきつくなった、周囲から体重を指摘された、動くと体が重いと感じる――そんなサインはありませんか。気になる方は、一度ご自身のBMIを計算してみてください。「少し気をつけた方がいいかな」と思ったそのタイミングが、行動を始めるチャンスです。
肥満症には保険適用となる専門的な治療もあり、体重増加の背景に別の病気が隠れていることもあります。気になる症状がある方は、ぜひ一度医療機関を受診してください。
早期からの肥満対策・肥満症治療は将来の心血管イベントを防ぐだけでなく、生活習慣病や心疾患の改善にもつながります。これは、「健康で長生き」するための大切な一歩です。
医師プロフィール
名村 咲音 先生
2020年岡山大学医学部卒業。淀川キリスト教病院にて初期研修修了。その後、循環器内科医として淀川キリスト教病院、愛仁会高槻病院、甲南医療センターにて後期研修を行い、2024年10月より現職。所属学会は、日本内科学会(専門医)、日本循環器学会、日本心エコー図学会。