なぜ肥満になると、睡眠中に息が止まりやすくなるのか
・首の周りについた脂肪が、空気の通り道(気道)を狭くする仕組み
鼻・口から肺に至る空気の通り道である上気道は、肥満になると舌や上気道周囲の軟部組織での脂肪組織の増大が起こり、上気道が狭くなります。眠ることで舌や上気道周囲の筋肉が緩みますが、もともと狭いと特に舌根沈下などで上気道が完全に閉塞し、吸っても空気が入ってこない無呼吸となります。そのままだと窒息してしまいますが、脳がそれを検知して眠りを浅くして(覚醒反応)、上気道閉塞が解除され呼吸が再開します。これを何度も繰り返すのが睡眠時無呼吸症候群(OSAS)です。ひどい人では1~2分ごとに無呼吸が生じます
・体重増加と睡眠中の息苦しさが引き起こす「悪循環」
体重が増加するとOSASが悪化して、睡眠中の息苦しさが出現しやすくなります。それによる睡眠の質の低下は、摂食ホルモンのバランスを変化させ、翌日の食欲亢進・嗜好の変化を引き起こし、眠気やだるさから活動量が低下するなどして、さらに体重増加が進むことがあります。
・体重の変化が睡眠中の無呼吸の回数に与える影響
一般的に、5~10%の体重増加でOSASの重症度(1時間当たりの無呼吸の平均回数)が15~32%増加するとされています。
睡眠中の無呼吸が「心臓や血管」に大きな負担をかける理由
・夜間の酸素不足が血圧を上げてしまう仕組み
無呼吸を繰り返すたびに起こる一過性低酸素血症(酸素不足)は、直接、または覚醒反応によって自律神経バランスを変化させます。本来は体が起きている状態で活性化する交感神経が活性化して血圧が上昇します。この交感神経の活性化は日中も続きます。
・不整脈や心臓の病気(心不全など)との深いかかわり
交感神経の活性化は、血圧の上昇に伴う負荷を増大させるだけでなく、直接心臓を刺激し心房細動などの頻脈性不整脈の原因にもなります。また、長期持続すると、心臓は常に刺激され続けるためくたびれてしまい機能低下につながり心不全などの心臓の病気になりやすくなります。
・血管が硬くなり、将来の脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まる理由
血管のほうも、交感神経による刺激が続くことで機能低下から動脈硬化へ進展すると考えられています。睡眠中何度も繰り返される酸素不足も、血管機能低下と動脈硬化の進展に関与し、将来の脳や心臓の血管障害による脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まります。
ご自身やご家族が気づける「睡眠時無呼吸症候群」のサイン
・大きないびきや「息が止まっている」というご家族からの指摘
ご家族やご友人などから、睡眠中の大きないびきや「息が止まっている」という指摘を受けることは、OSASの重要なサインです。
・日中の強い眠気、日々の疲労感、朝起きたときの頭痛
日中に強い眠気を感じる、疲労感が続く、起床時に頭痛がするなどは、OSASの典型的な自覚症状です。特に強い眠気の存在は、運転中や作業中、会議中の居眠りなどで、仕事上での不利を被る可能性もあるため注意が必要です。
・ 医療機関で行う検査(自宅での簡易検査と、病院での精密検査)
OSASと診断するには、無呼吸があるのか、どのくらいの頻度なのかを客観的に調べる検査(睡眠検査)が必要です。睡眠障害の診療を標榜している医療機関などで、自宅での簡易検査(寝るときに自分で装着)、必要に応じ入院して行う精密検査を受けていただきます。
睡眠時無呼吸症候群を改善するための主な治療法
・空気の力で気道を広げる「CPAP(シーパップ)療法」
検査によって中等症~重症のOSASと診断された場合、第一選択となる治療は「CPAP療法」です。やわらかいシリコンなどでできたマスクを鼻や口周囲に装着し、本体からホース内を通り、圧力のかかった空気がマスク内にたまるようになっています。この加圧された空気で呼吸すると、上気道が開いたままで保たれ無呼吸が軽減します。
現在、日本でもCPAP療法がうまく行えない非肥満者では、舌下神経刺激療法というペースメーカーのような小型装置を前胸部の皮下に植え込み、舌を前方に突出させる動きをつかさどっている舌下神経の枝にリード線を巻き付け吸気時の舌根沈下を防ぐ治療もできるようになりました。
・軽度〜中等度の方に向けた、顎の位置を整える専用マウスピース
検査によって軽症~中等症のOSASと診断され、特に軽症で何らかの自覚症状でお困りの場合、中等症でやせ型の場合では、睡眠中に下顎を前方に少し突出させた状態で保持するOSAS専用のマウスピースによる治療がよい適応となります。肥満傾向のある中等症や、重症でも、CPAPを使用できないか使用したくない場合などで検討されます。一般的にCPAPに比べると無呼吸の頻度を減らす効果は劣るとされており、治療への反応性も予知しにくいため、CPAP療法の適応がある方では第二選択となります。
・根本的な改善を目指す「適正体重に向けた減量」
日本のOSASの診断治療に関するガイドラインでは、肥満者ではCPAP導入前に減量、高度肥満であれば肥満外科手術も考慮となっていますが、CPAP導入後の減量については明確になっていません。CPAPやマウスピースはあくまで対症療法ですので、肥満者での減量は根本的な改善を目指す重要な治療オプションです。ただし、食事・運動療法での減量には限界があります。
適切な治療を続けることで実感できる体の変化
・朝の目覚めがすっきりし、日中の集中力や元気が戻る
CPAP、マウスピース、舌下神経刺激療法、さらには減量などの適正治療によって、目覚めが改善し、日中の集中力や元気が出るなどの自覚症状の改善が得られる可能性があります。
・血圧が安定し、血糖値やコレステロール値にも良い効果が現れる
症状だけでなく、さまざまな指標の改善も期待できます。主に交感神経活性の是正によって血圧の安定化、血糖値や脂質代謝異常にもよい影響があります。
・心臓や血管への負担が減り、健康で長く暮らせる安心感につながる
OSASをしっかり押さえることで、OSASそのものの心臓や血管へ悪影響だけでなく、血圧などの心血管疾患のリスク因子の改善にもつながることから、心臓・血管への負担が減り、健康に長生きできる可能性が高くなり、日々の安心感につながります。
【医師からのメッセージ】良質な睡眠を取り戻し、前向きに治療に取り組むために
生活習慣の中で睡眠の問題に対しての対策はこれまであまり強調されてきませんでしたが、最近、アメリカの心臓学会が睡眠の問題が心血管疾患リスクになることを改めて提唱し、日本でも厚生労働省による“健康づくりのための睡眠ガイド”が示され、睡眠の問題は改めてクローズアップされています。
睡眠がわるいと、眠気やだるさなどから減量に対して前向きに取り組む意欲の低下を来しやすいです。反対に睡眠が良くなることで減量効率が良くなる可能性もあり、モチベーションの維持や向上にもつながる可能性があります。
肥満症への薬物治療の一部が肥満を伴うOSASへ適応が拡大しているので、薬物治療という新たな選択肢がOSAS治療に入ってきました。自覚症状としての眠気・だるさなどの軽減も期待できるので、より多くの患者さんでOSASの拾い上げがなされることが重要です。ぜひ睡眠検査だけでも受けていただき、「健康で長生き」するための大切な一歩を踏み出していただくとよいのではないでしょうか。
プロフィール
葛西 隆敏 先生
1998年順天堂大学医学部卒業。国家公務員共済組合連合会虎の門病院にて初期研修、順天堂大学に戻り循環器内科入局、大学院で学位取得。2006年4月より虎の門病院睡眠センター医員、2009年よりカナダ・トロント大学Sleep Lab Research Fellow、2012年より現職。所属学会は、日本内科学会(専門医)、日本循環器学会(専門医)、日本心臓病学会(代議員)、日本心不全学会(代議員)、日本睡眠学会(理事・専門医・指導医)、日本高血圧学会(評議員・専門医・指導医)、心臓リハビリテーション学会(評議員・心リハ指導士)、日本動脈硬化学会