健康診断の結果でコレステロールの数値を指摘され、何から手をつければよいか迷うケースも少なくありません。コレステロール値の改善には食事と運動の両方が重要ですが、特に善玉(HDL)コレステロールを増やし、中性脂肪を減らすには「定期的な運動」が効果的です。今回の記事では、コレステロール値を改善するために効果的な有酸素運動の方法や、日常生活で無理なく続けられる具体的なステップなどを解説します。正しい知識を持って運動習慣を取り入れて、健康な体を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。
1.コレステロールと運動の関係
コレステロールの種類とその影響
コレステロールは、私たちの体を構成する細胞膜の主要な成分であり、ホルモンや食物の消化を助ける胆汁酸の材料としても欠かせない脂質の一種です。しかし、血液中の脂質バランスが崩れる「脂質異常症」の状態が続くと、血管の健康を著しく損なう原因となります。血液中に含まれる脂質には、主に以下の種類があります。
- LDL(悪玉)コレステロール:肝臓で作られたコレステロールを全身の細胞へ運ぶ役割を担っていますが、増えすぎると血管の壁に入り込んで蓄積し、動脈硬化を進行させる直接的な原因となります。
- HDL(善玉)コレステロール:全身の血管や組織で余ったコレステロールを回収し、再び肝臓へ戻す働きをします。この「血管の掃除」ともいえる働きによって、血管の壁に余分なコレステロールが溜まるのを防ぎ、動脈硬化の進行を抑えることから、善玉と呼ばれます。
- 中性脂肪(トリグリセライド):体を動かすための主要なエネルギー源となりますが、過剰になると皮下脂肪や内臓脂肪として蓄えられます。また、中性脂肪が高いとLDLを増やし、HDLを減らすという悪循環を引き起こします。
運動がコレステロールに与える効果
定期的な運動を生活に取り入れることは、脂質代謝の仕組みそのものを改善し、数値を良好な状態へ導くために非常に有効です。運動が脂質に与える効果は多岐にわたります。
- HDL(善玉)の増加と活性化:運動することで、脂質代謝が促進されることから余剰なコレステロールを回収する役割を担うHDL(善玉)コレステロールを増やす効果があります。
- 中性脂肪の燃焼促進:運動によってエネルギーが消費されると、血液中の中性脂肪(トリグリセライド)が低下します。
- 血液中の脂質の分解を助ける:有酸素運動は、筋肉にある「リポ蛋白リパーゼ」という酵素の働きを活発にします。これにより、血液中の中性脂肪の分解が促進され、中性脂肪を減らすとともに、LDLコレステロールの質が改善されます。具体的には、動脈硬化につながりやすい小さなLDLコレステロールを減らす効果があります。
- 糖代謝とインスリンの改善:筋肉を動かすことは全身の代謝を整え、脂質異常症だけでなく、肥満や糖代謝異常などのメタボリックシンドロームの予防・改善にも効果を発揮します。
このように、運動は単に脂肪を燃やすだけでなく、体内の化学反応を活性化させて血管を内側から守る役割を果たします。
2.コレステロールを下げるための運動方法
コレステロール値を改善・維持するためには、日常生活の中に適切な運動習慣を取り入れることが推奨されます。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」や同ガイドラインに基づく厚生労働省の解説で推奨されている内容は以下の通りです。
有酸素運動
コレステロール値の改善や予防において中心的な役割を担うのが「有酸素運動」です。酸素を取り入れながら、体内の糖質や脂質をエネルギーに変えて長時間継続する運動を指します。
- 推奨される時間:1日合計で30分以上の運動を目指しましょう。30分連続で行う必要はなく、朝・昼・晩に10分ずつ分けるといった「細切れ」の運動でも、合計時間が満たされていれば同様の効果が期待できます。これは、アメリカの医学誌でも報告されています。
- 推奨される頻度:できれば毎日、少なくとも週に3日以上実施することが、代謝を維持する上で重要です。特に善玉(HDL)コレステロールを増やすためには「週に合計120分以上」の運動が必要とされているため、週3回なら1回40分、週4回なら30分など、週単位での合計時間を意識するとより効果的です。
- 推奨される強度:「ややきつい」と感じる程度の中強度の運動が最も効率的です。心拍数が適度に上がり、軽く汗ばむくらいが目安となります。
- 具体的な種目:ウォーキング、速歩(早歩き)、ジョギング、サイクリング、水泳などが代表的です。特にウォーキングは膝や腰への負担を調整しやすいのでおすすめです。
筋力トレーニング
有酸素運動に加え、筋力トレーニング(レジスタンス運動)を併用することも効果的とされています。筋肉は体の中で最大のエネルギー消費器官であり、その量を維持・増加させることは脂質異常の改善につながります。筋力トレーニングには以下のようなメリットがあります。
- 基礎代謝の向上:筋肉量が増えることで、安静にしている時に消費される「基礎代謝量」が増加し、太りにくく脂質が溜まりにくい体を作ります。
- 脂質・糖の消費拡大:筋肉を動かすこと自体が直接的にブドウ糖や脂肪酸を消費するため、血液中の脂質を減らす助けとなります。
- 骨・関節の保護:筋肉を鍛えることは、加齢による膝や腰の痛みを予防し、結果として有酸素運動を長く安全に継続できる土台となります。
スクワットやプッシュアップなど、自分の体重を利用した自重トレーニングを週に2〜3回、無理のない範囲で取り入れるのが理想的です。有酸素運動で脂質を直接燃やし、筋力トレーニングで燃えやすい体を作るという2つの取り組みが、改善への近道です。
3.運動を取り入れるための工夫と注意点
効果が出るまでの期間と心構え
運動による数値の改善は、一朝一夕には現れません。コレステロールや中性脂肪の数値は1回の運動では変化せず、効果が現れるには数か月以上の継続が必要だとされています。すぐに結果が出ないからと諦めず、焦らずじっくりと続けることを目標にしましょう。
運動習慣を身につけるためのアイデア
- 週単位で時間を確保する:善玉(HDL)コレステロールを増やすためには、「週合計120分以上」の運動が目安の一つとされています。毎日できなくても、「週末にまとめて」「週4回30分ずつ」など、ライフスタイルに合わせて調整しましょう。
- 無理のない目標を設定する:最初から完璧を目指さず、まずは「今の生活にプラス10分歩く」といった、確実に実行できるスモールステップから始めましょう。
- デバイスを活用する:歩数計やウォーキングアプリなどで記録をつけると、モチベーション維持に役立ちます。
安全に運動を行うために
運動は「治療」だけでなく、将来の病気を防ぐ「予防」としても有効です。自身の健康状態に合わせて、安全にスタートしましょう。
- 健康維持・予防目的の人:健康な人にとっても、運動は中性脂肪を減らし善玉コレステロールを増やす効果があります。まずは「今より少し多く動く」ことから始め、徐々に運動習慣を作っていきましょう。
- 治療中の人・不安がある人:すでに脂質異常症の診断を受けている方や、高血圧、糖尿病、心疾患などの持病がある方は、血管や心臓に負担がかかっている可能性があります 。いきなり激しい運動を始める前に、必ず医療機関でメディカルチェックを受け、医師の指示を仰いでください。
- 体調をチェックする:誰にとっても無理は禁物です。睡眠不足や疲労がある時、血圧が高い時は運動を控えましょう。準備運動(ストレッチ)と整理運動も忘れずに行うとよいでしょう。
日常生活でできる簡単な動作も取り入れよう
「運動する時間がない」という人でも、日々の何気ない動作を少し変えるだけで立派なトレーニングになります。
- 階段を積極的に使う:エレベーターやエスカレーターを避け、1階分でも階段を使うように意識しましょう。有酸素運動と筋力トレーニングの両方の要素を兼ね備えた運動になります。
- 歩くスピードをアップする:通勤や買い物の際、歩幅を普段より数センチ広げ、少し速く歩くだけで、運動強度は大きく向上します。
- 家事中も筋肉を意識する:掃除機をかける、窓を拭く、布団を干すといった家事も、大きな筋肉を意識して動かすことで相当のエネルギー消費になります。
- 「ながら運動」をする:自宅でテレビを見ている時に足踏みをしたり、つま先立ちを繰り返したりするなど、ちょっとした隙間時間を活用してみましょう。
運動の効果を最大化する「リカバリー」と「栄養補給」
運動そのものと同じくらい重要なのが、その後の過ごし方です。運動の効果を体に定着させ、脂質異常を改善するサイクルを回すために、以下のポイントを意識しましょう。
- 休息(リカバリー)を大切にする:運動は体に負荷をかける行為であり、その効果を最大化するためには、運動後の「休息」が不可欠です。適切な休息をとることで、ホルモンや自律神経のバランスが整い、脂質代謝をスムーズに回す助けとなります。無理をして疲労を溜め込むよりも、しっかり休んで体を回復させることが、長く続けるコツです。
- 運動後の栄養補給を意識する:運動後、特に筋力トレーニングを併用した後は、傷ついた筋肉を修復するために体が栄養を求めています。このタイミングで、筋肉の材料となる「タンパク質」や、エネルギー代謝をサポートする「ビタミン・ミネラル」を補給することが重要です。筋肉が適切に修復・維持されることで、脂肪を燃焼する力(基礎代謝)が保たれ、コレステロール管理に役立ちます。
- 栄養補給のタイミングを逃さない:運動を終えてから早い段階で適切な栄養を摂ることで、筋肉の合成反応が効率よく進むことが知られています。運動直後に手軽に摂れる乳製品(牛乳やヨーグルトなどで脂肪分の少ないもの)や、ビタミンを含む果物などを準備しておくとよいでしょう。
4.運動以外でコレステロールを管理する方法
食事の見直しとその効果
運動は数値の改善に有効ですが、LDL(悪玉)コレステロールに関しては、食事の影響を大きく受けます。運動とあわせて、以下の生活習慣を見直すことが改善への近道です。
- 飽和脂肪酸の摂取を控える:特に悪玉コレステロールの値を左右する最大の要因は、動物性脂肪に多く含まれる「飽和脂肪酸」です。これらをとりすぎると、血液中のLDLが増えやすくなります。
- 控えるべき食品:肉の脂身(バラ肉、鶏皮など)、加工肉(ベーコン、ソーセージ)、バター、生クリーム、ラード、インスタントラーメン(パーム油)など。これらは、冷蔵庫で冷やすと固まる脂に多く含まれています。
- 食物繊維を積極的に食べる:野菜、海藻、きのこ類、大豆製品(納豆・豆腐)、未精製の穀物(玄米や麦ごはん)を積極的に摂りましょう。食物繊維は、小腸でコレステロールやその原料となる胆汁酸を吸着し、便とともに体外へ排出されるのを助ける働きがあります。
- 質の良い油を選ぶ:肉の脂身やバターなどの飽和脂肪酸を減らし、代わりに青魚の油(EPA・DHA)や植物油を選ぶことで、脂質バランスが整います。植物油の中でも、オリーブオイルなどはLDLコレステロールを上げにくいためおすすめです。一方、リノール酸を多く含むコーン油などは、HDLコレステロールを下げる可能性があるため控えめにすることが大切です。青魚の油は中性脂肪を下げる働きも期待できます。
- コレステロール含有食品を控える:鶏卵の黄身や魚卵、レバーなどはコレステロールを多く含みます。日本動脈硬化学会の声明(2015年)によると、脂質異常症の改善が必要な方の目安として、コレステロール摂取は1日200mg未満に抑えることが推奨されています。
- 調理法を工夫する:「揚げる」「炒める」よりも、「蒸す」「茹でる」「網で焼く」といった、余分な油を落とす調理法を優先しましょう。また、だしや酸味を利用して薄味を心がけることも、高血圧予防(動脈硬化リスクの低減)につながります。
生活習慣の改善がもたらす影響
食事と運動を効果的に機能させるためには、その他の生活習慣の改善も欠かせません。
- 禁煙:喫煙はHDL(善玉)を減少させ、血管を著しく傷つけます。脂質異常がある人にとって禁煙は、運動と同じくらい重要度が高いと言えます。
- アルコールを減らす:アルコールの飲み過ぎは中性脂肪の急激な上昇を招きます。休肝日を設け、適量を守る節酒を心がけましょう。
- 定期的に健診を受ける:脂質異常症は自覚症状がほとんどありません。定期的に数値を確認し、自分の取り組みの効果を客観的に把握することが、継続のモチベーションになります。
参考資料
- 健康日本21アクション支援システム~健康づくりサポートネット~(厚生労働省)「コレステロール」「脂質異常症」「脂質異常症の食事」「脂質異常症を改善するための運動」
- 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「コレステロールの働きと1日の摂取量」
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
- 女性の健康推進室ヘルスケアラボ(厚生労働科学研究費補助金を受けた研究班)「女性および高齢者の脂質異常症」
- 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」
- 日本動脈硬化学会「コレステロール摂取量に関する声明」
- JAMA Internal Medicine. 2017;177(3):335-342.
監修
渡会 昌広先生