はじめに
「年齢のわりに、進み方が早いですね」
整形外科の外来で、こうお伝えすることがあります。まだ60代前半。それにもかかわらず、膝の変形がかなり進んでいるのです。
多くの場合、それは単なる「年齢のせい」ではありません。
膝の軟骨がすり減り、痛みや変形が進んでいく病気を「変形性膝関節症(OA)」といいます。加齢とともに起こりやすい病気ですが、実際には体重の増加や運動不足、筋力低下といった生活習慣が大きく関わっています。
よくお話をうかがうと、「ここ数年で体重が増えた」「コロナ禍で外出が減った」「最近あまり歩いていない」「半月板を痛めたことがある」といった背景が原因になっていることが少なくありません。
では、体重が増えると、膝の中ではいったい何が起きているのでしょうか。
体重が1kg増えると、膝への負担はその何倍にもなる
「太ると、なんで膝が痛くなるんですか?」と、よく聞かれます。歩いているとき、膝には体重の数倍の負荷がかかると言われています。そのため、体重が1kg増えれば、その何倍もの負担が膝に加わるわけです。
しかも、本来なら筋肉がその衝撃を和らげてくれます。でも、動かない生活が続くと筋力は落ちていきます。
体重は増える。
筋力は落ちる。
このバランス変化により、変形は一気に進みやすくなるのです。
半月板は「すり減ってから裂ける」こともある
膝痛の原因に、半月板が関わっていることがあります。半月板が長年の負荷で少しずつ傷み、ある日ちょっとしたきっかけで断裂してしまうこともあります。
そのちょっとしたきっかけとは
- 呼ばれて振り向いた
- 階段下りで少し捻った
- 段差に気付かず、少し力をかけてしまった など
「急に痛くなりました」と来院される方の中には、実は長い間、半月板に負担がかかり続けていたケースが少なくありません。
5年で10kg体重が増え、その後半月板損傷を起こし、手術になった患者さんもいました。もし手術となると1週程度の入院、退院後の松葉杖生活、リハビリ通院など、予定外の休職、出費になるかもしれません。
コロナ禍、そして“熊”
コロナ禍では、「外に出なくなって太りました」という方が明らかに増えました。それだけでなく、最近は別の理由もあります。
「熊が出るから、怖くて散歩できないんです」
実際に、そんな声もありました。
社会的な出来事や環境の変化が、私たちの活動量に直結していることを実感します。
歩かなくなる → 筋力が落ちる → 体重が増える → 膝が痛くなる。
環境の変化が、膝の変形を進めるきっかけになることもあるのです。
痛みが活動量を奪い、さらに太る
変形の初期症状は、こうした「動き始め」の痛みです。
- 長時間座った後の立ち上がり
- バスや車から降りる瞬間
また、動き始めではないですが、「階段の下り」で膝の痛みを感じると受診される方もいます。
「ちょっと痛いから今日はやめておこう」という、小さな積み重ねが、外出を減らし、活動量を減らし、体重増加につながることがあります。
薬や注射は“時間稼ぎ”に過ぎない
外来では、
- 痛み止め
- 湿布
- ヒアルロン酸注射
- 装具処方
を行うことがあります。これらの処置で、確かに楽になると思います。でも正直に言うと、それは「その場しのぎ」です。
根本にあるのは、体重や筋力、生活習慣の問題。そこが変わらなければ、痛みは繰り返します。気づいたときには「軟骨がほとんどありません」という状態になることもあります。
痩せた人は、間違いなく良くなっている
長年診てきましたが、5~10kgしっかり減量できた方は本当に少数です。でも、減量に成功した方は、例外なく膝の症状が改善しています。「体型が明らかに変わった」と分かるレベルまで食事、運動習慣を変えた人は、ほぼ膝痛から解放されています。
ただ、60代、70代で減量をしたり、筋力を増やしたりするのは簡単ではありません。体重が増えるスピードの方が減量するスピードより、圧倒的に簡単で早いのです。
だからこそ、痛くなってから痩せるのは本当に大変です。
歩けなくなることは、人生の負の引き金となる
歩けなくなると、転倒リスクが上がります。もしも転倒したときに骨折すれば、そこから一気に体力が落ちます。入院、活動量の低下、気力の低下……。悪循環は止まりにくくなります。
つまり、「歩けなくなること」は、単なる膝の問題だけにとどまらないのです。
運動は「特別なこと」でなくていい
「運動しなきゃ」と構えすぎると続きません。ジム、プール、水着…ハードルは高いですよね。
だから私は、外来でこう言っています。
「歯磨きのときに、ちょっとだけ足を開いて腰を落としてみてください。」
膝に痛みが出ない範囲で、ゆっくりと腰を軽く落とす程度で十分です。無理に深く曲げる必要はありません。それだけでも膝の筋肉は刺激されます。日常生活の中でできる小さな運動を、少しずつ。それが一番現実的です。

体重管理は「将来歩き続けるための治療」
変形性膝関節症は、加齢だけの病気ではありません。生活習慣と深く関わっています。体重管理と筋力維持は、将来も自分の足で歩くための「治療」の一部です。膝が痛くなってからではなく、動ける今のうちに。それが、将来の自分を守る一番の近道かもしれません。
医師プロフィール
高山 定之 先生
2007年東海大学医学部卒業。長野中央病院にて初期研修、後期研修を行い、2014年より船橋整形外科病院にて専門研修、2017年4月より現職。所属学会は日本整形外科学会(専門医)、日本人工関節学会。